忘れられないEUROの名シーン ファン・バステンのボレーシュートはサッカー史に残る一撃になった (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【決勝でスーパーゴールがさく裂】

 ウクライナのサッカーを語る時、ロバノフスキーは外すことができない名将だが、決勝で再戦することになったオランダも名将が率いていた。トータルフットボールを発明したリヌス・ミヘルスだ。「トータルフットボール誕生の前と後で、サッカー概念は180度変わった」とは、後にその改訂版とされるプレッシングサッカーを提唱したアリゴ・サッキ元イタリア代表監督の言葉だが、ミヘルスはFIFAから20世紀最高の監督の称号を授けられることになった世紀の名将である。

 オランダと西ドイツがハンブルクのフォルクスパルクシュタディオンで相まみえた準決勝は、大一番だった。遡ること14年。1974年西ドイツW杯決勝と同じ顔合わせである。1974年W杯決勝で、オランダは下馬評で西ドイツを上回っていた。にもかかわらず、西ドイツの軍門に下った。オランダにとってこの準決勝は雪辱戦だった。采配を振る監督も14年前と同様ミへルスだ。

 舞台となったハンブルクがオランダに近い都市であることも手伝い、オランダのサポーターが大挙、結集。スタンドの半分以上がオレンジ色に染まった。1974年W杯の無念さが伝わってくるような光景だった。スコアは14年前と同じ2-1だが、オランダはリベンジに成功した。

1988年欧州選手権で優勝したオランダのストライカー、マルコ・ファン・バステン photo by PICS UNITED/AFLO1988年欧州選手権で優勝したオランダのストライカー、マルコ・ファン・バステン photo by PICS UNITED/AFLOこの記事に関連する写真を見る 決勝は、オランダが善戦したソ連をはねのけ2-0で勝利した。圧巻だったのは後半9分、マルコ・ファン・バステンが決めたボレーシュートだ。左サイドからMFアーノルド・ミューレンが滞空時間の長いクロスボールを蹴り込んだ次の瞬間、ボレーシュートが炸裂する。それは誰にも予想することはできなかった。軽やかなフォームから、ボールの上っ面を半分擦るような、ドライブがかったシュートが、ソ連の名GKリナト・ダサエフの頭上を鮮やかに飛び越え、きれいにネットにスパッと収まる。そんな絵をイメージできたのは、実際に右足を振り抜いたファン・バステン本人ぐらいだったに違いない。

 信じ難いマジックを魅せられたような電光石火の一撃。スタンドの観衆は瞬間、見入っていた。オランダ人でさえゴールが決まるや、しばらく黙り込んだ。いまなお脳裏に鮮明だ。

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