三笘薫のスピードが90分間、衰えないのはなぜか 超人的出場時間が可能な理由 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【本人はそれほどスピードを使っていない】

 三笘が中央に返したボールは、1トップ下で起用されたアダム・ララーナを経由して守備的MFカルロス・バレーバの下へ。その左足シュートは浮いてしまったため得点にはならなかったが、サッカーの醍醐味が満載された展開だった。

 この一連の三笘の動きで想起したのは、三浦知良のブラジル時代だった。現地で話を聞くなかで、カズはふとこう漏らした。

「こっちの(ブラジルの)人って不思議なんだよ。俺のこと、スピードがあるって言うんだよね。全然、速くないのにさ」

 だが当時のカズは逆を取る天才だった。逆を突く切り返しになにより定評があった。足が決して速くないカズでも、相手の逆を取れば、瞬間、思いきり速く見える。走るスピードがカズより数段速い三笘なら、なおさら速く見えるだろう。

 だが本人はそれほどスピードを使っていない。常時8割の力でプレーしていることが90分間、動きが衰えない理由、疲労が蓄積しにくい理由だろう。

 だがこの試合、ブライトンはフラムに1-1で引き分けてしまう。三笘のプレーも採点するならば6.5になる。ケガ人を多く抱えるチーム事情が災いしたことは間違いない。ペルビス・エストゥピニャン、タリク・ランプティ、ソリー・マーチらの故障により、この日左SBを務めたのは先述のイゴール・ジュリオで、本職はCBだ。実際、彼は左SBと言うよりCB然と構えた。三笘をサポートする動きを見せたのは、フラムに同点とされた後だった。

 ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督は、後半のある時まで4-2-3-1と3-3-3-1の中間型のような布陣で急場を凌ごうとしたが、それがうまくいかなかった結果、引き分けたという印象である。

 三笘は強行軍に対応できても、ケガ人を大量に抱えるチームそのものは胸突き八丁を迎えている。ブライトンファンやクラブ関係者は、11月の代表ウィークに三笘が帰国しないことを願うばかりだろう。

プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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