三笘薫のスピードが90分間、衰えないのはなぜか 超人的出場時間が可能な理由 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【動きに余裕がある理由】

 この日、最も光ったウイングプレーは前半13分に訪れた。

 今季加入した左サイドバック(SB)イゴール・ジュリオから1トップのエバン・ファーガソンに差し込んだ縦パスが、次の瞬間、ライン際で構える三笘の前に回ってきた。非常に立体感のあるパスワークである。こうして三笘は、フラムの右SBティモシー・カスターニュと対峙することになった。

 ベルギー代表歴33回。欧州の上級レベルのSBを向こうに回し、三笘は後ろ足にあたる右足のインサイドでボールを運ぶように縦を突いた。このワンプレーで20~30メートル前進。相手のゴールラインまで残すは10メートル強という、ここで相手にボールを奪われても、絶対にカウンターを食らわない安全な場所までボールを運んだ。

 懸命に食らいつこうとするカスターニュと三笘。動きに余裕があるのは三笘だった。主導権を握ることができていた。縦に出る瞬間、微妙に相手の逆が取れていたからだ。精神的にも優位に立つことができた理由である。

"逆"が取れれば相手の動きは一瞬、遅れる。先行する三笘と追いすがるSB。この差が見る側を錯覚させる。三笘の動きが実際より速く見える。相手のSBしかり。ヤバいと慌てる。精神的にも劣勢に回る。

 そこで三笘は動きを止めた。カスターニュが追いつくまで待つ、サービス精神を発揮したのか。いや、それは次なる動きへの罠だった。精神的に優位に立つ三笘は相手の呼吸を見計らうように切り返しを図った。低く沈み込むようにクルッと猫のように身体を回し込むと、相手の逆を突いて前に出た。

 俊敏な動きとはこのことである。人間離れしたスピード感に見えるが、三笘の息は上がっていない。相変わらず余裕がある。体力勝負に勝ったわけではないからだ。対応に四苦八苦しているカスターニュを眺める余裕さえあった。次なるフェイントという悪だくみを考案する時間的余裕があった。

 ドリブルでツータッチ前進。ゴールラインが見えたところで、今度は深々と切り返した。このアクションが滅茶苦茶、きれて見えた理由もまた、逆が取れていたからだった。カスターニュの動きが遅れることで、必要以上に速く見える。

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