久保建英はメッシに近づくことができるか その座を競うリーガの左利きアタッカーたち (3ページ目)
【「怪物」になるために必要なこと】
そして今シーズン脚光を浴びそうなのが、バルサの宿敵であるレアル・マドリードに入団したトルコ代表の18歳、アルダ・ギュレルである。レフティ独特のボールタッチで、タイミングを外すことができる。ボールを操り、運び、仕掛ける、その技術が白眉。マルコ・アセンシオの代わりに入った形だが、カルロ・アンチェロッティ監督との相性次第では、ラ・リーガの主役のひとりになるだろう。
どの選手も才能は申し分ない。バロンドールに近づくには、プラスアルファが必要か。
「Tirar del Carro」
スペイン語で、「荷車を引く」が直訳だが、転じて、一番つらい仕事を引き受け、先頭に立ってやる、という意味になる。その資質が、同国ではトッププレーヤーの条件だと言われる。自ら勝利を引き寄せる執念と言えばいいだろうか。
「ボールが足元に入ったら、怖いものなんてない。自分は無敵になる。敗北を憎むし、勝つことしか考えない」
18歳だったメッシに、筆者がバルセロナでインタビューした際の答えである。技術もそうだが、そのメンタリティこそが、「怪物」に変身を遂げるために必要な触媒だったのかもしれない。とことん自らを信じ、チームを勝利に導けるか。勝利や成長への貪欲さがあってこそ、時代を動かすこともできる。
その点でも久保は、列挙した選手たちと比べても突出したパーソナリティを感じさせる。それは誰でもなく自らを恃みとし、チームを勝たせるという気概であり、その技術とも言えるか。英雄的選手だけが持っている特色だ。
「久保は(チームの勝利に)決定的な選手になることを、自分自身に求めてきた。彼はそれを成し遂げつつある。試合を通じて、とにかくトライすることをやめない」
スペイン大手スポーツ紙『アス』が下した久保の昨シーズンの総評は、ひとつの暗示である。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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