グアルディオラ監督のマンチェスター・シティはついにCLを制覇するか。図抜けた組織力を壊しても強力な個人ハーランドを入れたチームの行方
第4回:マンチェスター・シティ
ハーランド(左)という強力な個人をシティに加えたグアルディオラ監督(右)。CL制覇なるかこの記事に関連する写真を見る
【天才たちのプレーを再現化】
ジョゼップ・グアルディオラ監督の最高傑作は、初めて指揮を執ったバルセロナだろう。バイエルン、マンチェスター・シティでも国内タイトルを獲りまくってきたが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝にはまだ届いていない。プレーのクオリティの面でも、衝撃的だったバルサを超えるには至っていない。
グアルディオラはその呼び方を嫌っているようだが、バルサには「ティキ・タカ」があった。バイエルンにもシティにもそれはあったが、バルサの時ほどの威力はない。ショートパスの連続で相手守備陣を操り、破壊していくティキ・タカは史上最高クラスだった。
それ以前には、たとえば1970年メキシコW杯のブラジル代表があり、74年西ドイツW杯のオランダ代表、82年スペインW杯のブラジル代表、ヨハン・クライフ監督が率いたドリームチームのバルサ(80年代後半~90年代中盤)、ルイ・ファン・ハール監督下のアヤックス(90年代)など、同種のプレースタイルのチームは存在していた。
だが、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタのバルサはそれ以上のクオリティを見せつけていた。なぜなら、ペップは過去の偉大なチームの偉業を理論化していたからだ。
何人かの天才たちが偶然揃った時に現出していたプレーを、再現可能なものとした。だから散発的でも偶発的でもなく、どの試合でもルーティーンのように繰り返されていた。
CL決勝で二度敗れたマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、「彼らは一晩中でもパスを回し続けるだろう」と述べている。これは比喩でも誇張でもなく、体力が続くかどうかは別として、いくらでもパスを回し続けられるのが当時のバルサであり、それは読まれれば抑え込まれるパターンではなく、同じ原理を使った無限のバリエーションを持つ攻撃だったわけだ。
それがバイエルンとシティでなぜ再現できないのか。ペップはティキ・タカの秘密を握っている。ただ、かつてのバルサのように実現するには、メッシ、シャビ、イニエスタが必要というのが今のところの結論なのだと思う。天才たちが織りなしてきた極上のパスワークの原理は解明できたが、実際に完璧に行なうには天才が必要という皮肉な帰結だ。
昨季、シティは最もバルサに近づいている。「偽9番」に「偽サイドバック(SB)」、「偽GK」まで現れた。ほとんどのポジションが偽化し、「トータルフットボール2.0」とも言うべき、アップデートされた偉大な足跡を継いだチームだった。しかし今季、グアルディオラ監督はあえてそれを壊しにかかっている。
1 / 3
著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。