福田正博が振り返るカタールW杯。アルゼンチン優勝で感じた「サッカーの固定観念を覆す2つの出来事」 (3ページ目)
【キャリアのない監督がW杯を獲る】
もうひとつ固定観念を覆したのが、就任前まで監督としてのキャリアを持たない44歳のリオネル・スカローニ監督が、ワールドカップ制覇を成し遂げたことだった。
サッカーに限らず、監督は何事も経験が重要と言われる。しかし、スカローニ監督はロシアW杯を率いたホルヘ・サンパオリの下でアシスタントコーチをしていたが、前監督が解任されると、大会後に暫定的監督に昇格し、そこから代表での成績が評価されて正式な監督になった。
2019年のコパ・アメリカで3位、2021年のコパ・アメリカで28年ぶりの優勝をもたらし、カタールW杯のグループステージ初戦でサウジアラビアに敗れるまで36戦無敗を記録した。そして、監督経験のない監督が、コパとワールドカップの二冠を達成してしまった。
戦術が豊富だとか、クラブレベルでの指導実績だとか、ヨーロッパ型だとか、監督を評価する基準はいろいろある。だが、それはあくまでチームが勝つ確率が高くなるのはどれかを選択する際の、要素にすぎない。過去の指導実績が必ずしも未来にも通じるものではないと、スカローニ監督は示したと思う。
アシスタントコーチの経験しかない指導者を暫定とは言え監督に据え、好成績だからと監督に昇格させた。これをマネするのはなかなかできないことではあるが、一方で指導者としてキャリアのスタートは、こういうお試し的な登用があってもいいのではないかと感じた。
サッカーのトレンドは4年に一度のワールドカップではなく、世界中から優れた選手を集めてチームを作り上げることのできるUEFAチャンピオンズリーグのほうが表れやすい時代になっている。
そして、戦術的な進化を追っているだけでワールドカップが獲れるわけでもないことや、ひとつのボールを奪い合い、相手ゴールに数多く入れるというサッカーの原点を思い起こさせてくれた。それが、今回のアルゼンチンの優勝だった。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008~10年は浦和のコーチも務めている。
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