ブラジル人記者の嘆き。王様ペレの葬儀にセレソンの新旧スター選手たちが背を向けたのはなぜか

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 生前、ブラジルに大きな贈り物をしてくれたサッカーの王様ペレ。彼の死は少なくとも3つのことを明白にした。ブラジルという国がいかに偉大な功績を残した者に対して薄情か、ブラジルの選手たちがいかに傲慢であるか、そしてブラジル人がいかに彼を愛したか――だ。

 まず、何より信じられないのは、ブラジルがペレのために、国として何もしなかったことだ。お隣のアルゼンチンでは、ディエゴ・マラドーナの死後、国葬を開いたのに、ブラジルは、ただ3日間、哀悼の意を示したのみだった。

 ペレの棺はサントスのスタジアムに24時間安置され、その後、サントスの町を巡り、墓地へと向かった。だがペレは、サントスだけのスターではない。ブラジル中、南米中、そして世界中のサッカーの王様だ。少なくとも首都のブラジリアで1日、そして彼が多くの勝利を挙げ、1000ゴールを達成したサッカーの殿堂マラカナン・スタジアムでも1日、人々と最後のお別れをすべきだった。

プレミアリーグをはじめ、世界各地でペレの追悼セレモニーが行なわれている photo by Reuters/AFLOプレミアリーグをはじめ、世界各地でペレの追悼セレモニーが行なわれている photo by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る 1月1日に大統領に就任したルラは、ペレの葬儀に姿を現したものの、滞在時間はわずか18分、そのほかに政府からは大臣がひとり参列しただけだった。国内の主要クラブの会長のうち、出席したのはサンパウロのフリオ・カサレスだけ、フラメンゴは同じ時間にビトール・ペレイラ新監督のお披露目をし、大バッシングを受けた。

 ブラジルの現役選手や元選手たちも、ほとんどが葬儀に姿を現さなかった。サンパウロ州サッカー協会副会長のマウロ・シルヴァ、11月にサントスのスポーツコーディネーターに就任したパウロ・ロベルト・ファルカン、そのほかにはカレッカぐらいだった。多くの選手はペレが亡くなってすぐにSNSで盛大に追悼の意を表したが、ふたを開けてみたらこんなものだ。写真をアップしてコメントを書くぐらいなら誰でもできる。

 この一件で一番、評判を落としたのはネイマールだ。彼はペレと同じサントス出身、その絆はかなり深い。若い頃はかなり目をかけてもらった。彼は葬儀に参列しない理由を、「パリ・サンジェルマンがパリを離れることを許さないから」と言っていたが、同じ時にキリアン・エムバペとアクラフ・ハキミがニューヨークに行っていたことが発覚。ネイマールのウソがばれてしまった。それどころか葬儀が行なわれている同じ時間にパーティーを開き、歌を歌っていた。

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