福田正博が振り返るカタールW杯。アルゼンチン優勝で感じた「サッカーの固定観念を覆す2つの出来事」 (2ページ目)

  • text by Tsugane Ichiro
  • photo by JMPA

【固定観念に一石を投じたアルゼンチンの優勝】

 アルゼンチンの優勝は、この20年間ほどサッカー界を覆う固定観念に一石を投じるものになるかもしれない。それは「スーパースターを中心にチームをつくっても勝てない時代」と言われてきたことに対してだ。

 ワールドカップで南米勢が優勝したのは、2002年日韓W杯のブラジルが最後。そこから20年間、ワールドカップは欧州勢が掲げてきた。そのため、組織的なサッカーができなければ頂点にたどり着けないという見方が主流になっていた。

 メッシも2014年ブラジルW杯で決勝戦にたどり着いたが、ドイツに0-1で敗戦。前回ロシアW杯は決勝トーナメント1回戦で19歳だったエムバペのフランスに3-4で敗れた。今大会もやっぱり届かないのかなと見ていた。

 それが、メッシのために若い選手たちがハードワークをした。このハードワークにおいては、過去大会のアルゼンチンも同じだったが、メッシがこれまでの大会のように何でもかんでも自分で決めるという姿とは違い、周りの選手をうまく生かしていた。これが大きかった気がする。

 よく「個の南米、組織のヨーロッパ」と言われる。だが、カタールW杯の決勝戦を見ながら感じたのは、切り口をどこに置くかで、個のフランス、組織のアルゼンチンの構図にもなるということ。たとえば、エムバペのスピードを最大限に生かすフランスの戦い方は、彼のスピードが"個"になる。一方、メッシを生かすためにハードワークする周りの選手たちを切り取れば、"組織"のアルゼンチンになる。

 これは日常のサッカーでは、欧州と南米はボーダーレスの時代になったのも影響しているだろう。これまでどおりの見方で、「個の南米、組織のヨーロッパ」という構図がわかりやすかったのは、守備のところだろうか。フランスが連係・連動して対応して守ったのに対し、アルゼンチンの守備は一人ひとりが局面でファイトしていた。ただそれも、実際は両者の比重の違いにすぎなかった。

 フランスに体調不良者が続出したことや、ネイマールのブラジルがクロアチアにPK戦で敗れてしまったこと、もっと言えば日本がクロアチアに勝っていたらブラジル戦が見られた......など、残念なことを挙げだしたらキリはない。

 ただ、いずれにしろ欧州勢以外が優勝したのは、ワールドカップにとってはよかったと思う。欧州勢ばかりが優勝すると、ワールドカップの価値が疑問視され、ヨーロッパ選手権だけをやっていればいいという風潮になりかねないからだ。

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