スペイン代表に五輪では健闘も、フル代表は...トルシエジャパンが演じた世紀の凡戦 (3ページ目)
窮地を脱したトルシエ
単なる大敗ではないことをトルシエも自覚していたものと思われる。次戦のスペイン戦に、もし同様なスコアで大敗すれば、解任騒動に発展する。そう読んだトルシエは恥も外聞もなく、守り倒すプランを考案した。フラット5はその産物に他ならなかった。
民族対立が激しいスペインは、代表サッカーへの関心が低い国として知られる。20年前は現在より、その傾向がいっそう強かった。日本戦が観衆を1万5000人程度しか収容できないコルドバの小さなスタジアムで行なわれた理由でもある。
スタンドを8割方埋めた地元ファンは、ナショナリズムを高揚させ、スペインの勝利だけを願い、スタジアムに集まってきたわけではない。面白い試合を見たいとの欲求があったはずである。試合後、知人記者を含むスペイン人は実際、筆者にこう皮肉をぶちまけてきた。
「日本は守りの練習をするために、はるばるスペインまで高い旅費と時間をかけてやってきたのか。ご苦労様」
彼らは一様に呆れかえっていた。
試合は本当につまらなかった。当時のノートに筆者もこう憤りをぶちまけている。「眠くなるほど退屈」「こんな試合を毎日見ていたら病気になる」「サッカーが嫌いになりそうな試合」「日本はロープ際でひたすらガードを固め、クリンチで逃げ続けるボクサーのよう」「これは事件」「日本サッカー史に残る汚点」「世の中にはやっていいことと悪いことがある」「もしサッカーファンで、この日本のサッカーが好きだという人がいたら、お目にかかりたい」「有罪か無罪かと言われたら無罪だろうが、世界のサッカー界から永遠に叱られ続けることになるサッカー」......。
スペインが決勝ゴールを挙げたのは後半44分。ムニティスのスルーパスを途中出場したルーベン・バラハが流し込んだゴールだった。筆者にはその瞬間、胸をホッとなで下ろした記憶がある。
試合後、トルシエはこう言った。「守備はオッケーだった。あとはもう少し、攻撃的精神も持って臨めば......」。日本のメディアも酷かった。その言葉をそのまま見出しに使ったのである。まだ、サッカーを守備と攻撃に分けて考えがちだった当時の日本人につけ込むような言い回しで、トルシエは窮地を逃れることに成功した。
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