スペイン代表は欧州の強豪ではなかった。弱いうえにつまらなかった暗黒時代

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AFLO

スペイン代表・強さの秘密(1)

 スペイン代表のW杯本大会出場は、1978年アルゼンチン大会から2022年カタール大会まで、連続12回を数える。ブラジル、ドイツ、イタリア、アルゼンチンに次ぐ世界5位の記録である。しかも、イタリアが前回2018年ロシア大会に続き予選で敗退したので、今回の出場チームに限れば、順位がひとつ上がる。まさしく世界屈指の強豪国である。

 その一方でスペインは、代表チームを応援する情熱が低い国として知られる。ドイツ、オランダ、イングランドなどと比べるとその差は歴然。近しいのはフランス、イタリアになるが、スペインこそが欧州のワースト国だろう。W杯やユーロ(欧州選手権)を現地観戦に訪れるサポーターの数が何と言っても少ない。たいていの場合、相手に数で劣る。

 2003年にホームでドイツと対戦した親善試合は、実に不思議な光景のなかで行なわれた。マジョルカ島のソン・モイスで行なわれた一戦だが、この島は、スペイン人というよりも欧州人にとってのリゾート地で、スペイン人より外国人が多く暮らしている。なかでも目立つのはドイツ人で、パルマ・デ・マジョルカ空港では、最初にドイツ語のアナウンスが流れるほどである。

 スペインホームの親善試合にもかかわらず、ドイツ人がスタンドを多く埋めたのはそうした意味で当然だったが、このような現象が起きる国は、世界広しといえどザラにはない。極めて稀なケースだ。ドイツ人の観戦者がいなければ、スタンドはガラガラだったことになるが、スペインサッカー協会はあらかじめその数を見込んで、この地をホーム戦の舞台に選んだことも事実だった。

 スペインでは国際試合を行なえる都市が限られている。大きな都市で問題なく行なえるのは、バレンシアとセビージャぐらいだ。カスティージャ、カタルーニャ、バスク、ガリシアといった複数の民族から成り立つスペインの特殊な背景と、それは深く関係する。

 なかでもスペイン代表に強い抵抗感を持つのが独立志向の強いカタルーニャとバスクの人たちで、フランコ軍事独裁政権時代に自由を奪われ、迫害を受けた彼らにとって、中央政府があったカスティージャのマドリードは遺恨の象徴になる。レアル・マドリードとカタルーニャのバルセロナの一戦がクラシコと呼ばれ、盛り上がる理由でもある。

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