リバプールのマネvsサラーなど盛り上がる一方で、アフリカネーションズカップでは死者が出る悲劇もあった (2ページ目)

  • ニック・エイムス●取材・文 text by Nick Ames
  • 井川洋一●翻訳 translation by Igawa Yoichi

【スタジアムで死亡者】

 今大会のために2018年に完成したばかりのメインスタジアムで、なぜこんなことが起きてしまったのか。そこは首都の中心部から北へ13kmも離れたのどかな場所で、人々が押し合うシーンなど想像もできない。

「(南エントランスの3つの)ゲートをひとつしか開けなかったのは、なぜだ? すべて開いていれば、彼らの命が失われることはなかったはずだ」と、アフリカサッカー連盟のパトリス・モツェペ会長は、のちの会見で責任者を探すように言った。筆者は事故の翌日に現場を歩き、周囲の人々に話を訊いた。すると、いくつかのことがわかった。

 当日のキックオフ前に、千人を超えるファンが南エントランスへ押し寄せていたが、現場を取り仕切る警官は10〜20人ほどだったという。そのため、彼らは3つのゲートのうち2つを閉じ、コントロールしやすくしようとしたが、それが裏目に出た。

 なかには、チケットを持っておらず、どさくさに紛れて入場しようとした人もたくさんいたようだ。自国の代表チームの試合を前に興奮した大勢の人々が、たったひとつのゲートに殺到したことで、前方にいた人々は倒され、踏みつけられ、土埃のなかに埋もれていったという。

「非常識で無作法なカメルーン人の行動は、これで終わりにしなければならない」と、同国政府のスポーツ大臣ナルシス・ムレ・コンビは話した。ただしひとつ言えるのは、ネーションズカップの開催国では、常に地元ファンが熱狂するということ。それは予想できたはずだ。

 この災難の後、スタッド・オレンベにこそ、多くの地元民は足を運ばなくなったが──カメルーンとエジプトの準決勝の観客数は24,371人。収容6万人のスタジアムには、新型コロナの規制で8割の入場制限が設けられていたが、その半分ほどだ──、街は変わらずに賑わっていた。人々は試合を放映するテレビに群がり、大きな身振りや歓声でプレーに反応する。アフリカ王者を決する大会を存分に楽しみ、そこらじゅうでパーティーが続いていた。

 むろん、彼らは8人の死を悼んだ。しかしそこにある死とは、貧困やマラリア、頻発する交通事故、欠陥のある医療体制によって、常日頃からもたらされているものであり、我々他大陸の人間とは生死の捉え方が違うようだった。悲劇による衝撃を引きずることなく、生きている人々はそれぞれの生の瞬間を楽しんでいた。

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