今季CL優勝候補筆頭のバイエルンの戦術。個々のアスリート能力全開でよどみなく圧倒的に攻め続ける

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

欧州サッカー最新戦術事情 
第8回:バイエルン

日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。第8回は、ドイツのバイエルンを取り上げる。一昨シーズンのCLチャンピオン。ユリアン・ナーゲルスマン監督になって戦い方が変わり、攻撃力はより圧倒的になった。今季もCL優勝候補筆頭だ。

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圧倒的な攻撃力を誇るバイエルン。今季CL優勝候補筆頭だ圧倒的な攻撃力を誇るバイエルン。今季CL優勝候補筆頭だこの記事に関連する写真を見る

【ナーゲルスマン監督の手腕】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ6戦全勝。最多22得点、最少3失点。バイエルンは抜群の戦績だった。グループステージ時点では優勝候補筆頭と言っていいだろう。

 2シーズン前に優勝した時も圧巻だったが、今季はそれ以上に強力だ。前回優勝時とはプレースタイルも違っていて、ユリアン・ナーゲルスマン監督の手腕がうかがえる。

 優勝した2019-20シーズンと、主力メンバーはほとんど変わっていない。ハンジ=フリック監督(現・ドイツ代表監督)だったこの時は、中盤の中央へパスをあまりつながなかった。相手の守備ラインの間へつなぐことはせず、一気に両翼へフィードして攻撃の強度を出していた。

 今季、ナーゲルスマン監督に代わったバイエルンは、ライン間(相手DFとMFの守備ラインの間)へのパスを多用するようになっている。

 フォーメーションは4-2-3-1で変わらないが、ライン間へ入る選手が増えた。左ウイングのレロイ・サネはすっかりインサイドハーフになっている。以前はタッチライン際に開いてプレーしていたのが、ほとんどの時間をハーフスペースなどライン間でプレーするようになった。

 サネと、トップ下のトーマス・ミュラーあるいはセンターフォワード(CF)のロベルト・レバンドフスキ、さらにMFの1人(レオン・ゴレツカなど)、だいたい3人がライン間にいる。あえてこの地域へパスを入れなかったフリック監督時代との大きな違いだ。

 左右のバランスも変わった。サネが中へ入ることで、左サイドはサイドバック(SB)であるアルフォンソ・デイビスの持ち場になった。右はキングスレイ・コマンがサイドに張っていて、右SBのバンジャマン・パバールはサポートにつく程度でそれほど上がってこない。攻撃時のフォーメーションは、パバールとセンターバック(CB)2人の3バック、その前にアンカー1人、ライン間に3人、ウイング2人、CF1人となっている。

 そして、CBからライン間にいる選手へ、実にあっさりとパスが入っている。

 相手MFの守備ラインを越えていくパスは、実は急がなくていい。縦へ急げば急ぐほどつかまりやすくなるもので、じっくりと相手のプレスをほどいてから前進するのが良策とされている。ところが、バイエルンのライン間へのパスは、あっけないほど早いタイミングで通っている。その理由はおそらく最大の強みと関係がありそうだ。

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