今季CL優勝候補筆頭のバイエルンの戦術。個々のアスリート能力全開でよどみなく圧倒的に攻め続ける (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

【アスリート能力全開】

 バイエルンの強みは、選手個々のアスリートとしての能力だ。皆、速い。単純にスピードがあり、スプリントを連続させるスタミナもある。

 右サイドに開いているコマン、左のデイビス。この2人がとくに速い。セルジュ・ニャブリが出てきてもやはり速い。このサイドの速さを、走っても走らなくても相手への脅威にしたのはナーゲルスマン監督の工夫だと思う。

 相手がサイドを警戒すればディフェンス(DF)ラインは下がり、中央のスペースが空く。ライン間にあっけないほどパスが通るのは、このサイドの脅威があるからだ。

 さらにレバンドフスキ、ミュラーが相手DFラインの裏を絶えず狙っている。どちらかが裏を狙って相手のCBを下げると、もう1人がライン間へ下がる。このコンビも効いている。

 しかし、より強力な攻め込みルートはライン間よりサイドだ。ライン間へつなぐと見せて、あるいはつないでから、サイドへの展開した時のバイエルンの攻撃は最も迫力がある。

 たとえば、左CBのリュカ・エルナンデスから、左SBのデイビスに斜めのパスが出る。普通、このパスには守備側のMFがあと追いしても追いつくものだ。つまり、MFの守備ラインの手前にデイビスを置くことができる。

 ところが、スピードのあるデイビスをあとから追っても、まず追いつけないのだ。MFの守備ラインが1本のパスで簡単に通過されてしまう。守備側のSBはライン間にいるサネを見ているからカバーには入れない。

 ならばここでCBが外へ出るかというと、これもまずできない。中央を空けるのは得策ではないからだ。かくして何でもないパス1本とデイビスのドリブルで、相手の全ラインを通過してしまうという事態すら起こっている。

 サイドが異常なほど速く、ライン間へも簡単にパスが通るので、バイエルンの攻め込みは停滞が少ない。相手のプレスをほどいてから前進するまどろっこしさがなく、そのため相手に引かれて苦労することも少ない。

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