イングランド代表は育成改革で20歳前後の選手が台頭。カタールW杯へ向け絶賛リノベ中

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

強豪国のカタールW杯(5)~イングランド

「インポッシブル・ジョブ」

 イングランドでは代表監督のポストをこう呼ぶ。サッカーの母国と言われるイングランドだが、その代表チームがタイトルを手にしたのは歴史上たった一度きり。1966年の自国開催のW杯だけである。以来55年、多くの監督がタイトルを目指してきたが、誰も成功していない。そのため、サッカーの母国の誇り、責任、大きなプレッシャーがかかるイングランド代表監督は世界で最も難しいとも言われる。まさに"手に負えない仕事"なのだ。

 しかし今年、そのインポッシブルが、限りなくポッシブルに近づいた。

 この夏のユーロ2020。自国のサポーターが集うサッカーの殿堂ウェンブリー・スタジアムで、イングランドは優勝にあと一歩のところまで迫った。PK戦の末の準優勝で、優勝できなかったのは多少の不運もあった。

 イングランドは確実に変わりつつある。前回のロシアW杯でも、近年まれにみる好成績のベスト4までたどり着いている。

若いチームをまとめるイングランド代表キャプテン、ハリー・ケイン photo by AFLO若いチームをまとめるイングランド代表キャプテン、ハリー・ケイン photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る そのカギとなるのは、約10年前からイングランドで進んでいる若手育成の強化だ。FA(イングランドサッカー協会)がイングランド全土から若い世代を発掘し、新たな世代を育てようとしている。今までばらばらだった指導方も統一し、若手を教えるコーチの育成も始めた。選手目線に立ち、共通した認識での指導がその目標だ。

 また、選手の特性を、「CB」「右ウイング」などと固定するのではなく、複数のポジションでもプレーできるようなトレーニングをしている。これは監督にさまざまなプレースタイルの選択肢を与えてくれるだろう。2012年にはセント・ジョーンズ・パークに国立のトレーニングセンターを設立し、すべてのユース年代の代表がともに練習できるようになった。プレミアリーグのアカデミーが根付いたことも大きい。イングランドでは90年代の終わりまで、ジュニア世代は学校サッカーで育つことが多かったが、クラブチームのプロの指導者が仕切ることになったのである。

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