メッシなど「偽9番」は名選手の系譜。実は古いその歴史と機能するカラクリを解説 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 5人編成のFWは、右がフアン・カルロス・ムニョス、インサイドライトにディエゴ・マラドーナが敬愛したというホセ・マヌエル・モレノ、インサイドレフトはラ・マキナの得点王アンヘル・ラブルナ、左ウイングにフェリックス・ロウスタウ、そしてCFに「偽」のペデルネラ。

 ペデルネラはもともとインサイドフォワードで、豪華絢爛たるチームメートに活躍の場を与える術を心得ていたようだ。「1人オーケストラ」と称賛され、5人の頭脳として活躍した。

 ペデルネラの後釜にはアルフレッド・ディ・ステファノが収まり、偽9番を引き継ぐとともに、やがてレアル・マドリードへ移籍してから黄金時代を築いて、このプレースタイルを世界的に有名にしている。

 偽の9番がいるということは、本物の9番もいる。真正9番は長身頑健なイングランドのCFが代表的だが、ヨーロッパ大陸の9番は必ずしもイングランド型ではなかったようだ。

 1930年代のスーパーチームだった、オーストリアのCFマティアス・シンデラーのニックネームは、「紙男」である。細身の技巧派で、DFの間をすり抜けていくドリブルが「紙」の由来とされている。

 1950年代に「マジック・マジャール」で知られるハンガリーのCFナーンドル・ヒデクチも元インサイドフォワード。ヒデクチの空けたスペースに得点力抜群のインサイドフォワード、フェレンツ・プスカシュとサンドロ・コチシュが入り込むというアプローチで一世を風靡した。

 1970年代には「ディ・ステファノの再来」と呼ばれたヨハン・クライフが、偽9番の系譜を継ぐ。そしてクライフは、監督として偽9番の機能性を確立した。

<偽9番のカラクリ>

 クライフは1988年にバルセロナの監督に就任すると、偽9番のカラクリを論理的に説いた。

 ペデルネラ、ディ・ステファノ、ヒデクチなどの偽9番は確かに偉大ではあったが、対戦相手は2バックないし3バックの時代である。CFが引き、相手のセンターバック(CB)がつられてマークに動けば中央はがら空きだった。

 もちろんカバーリングもあり、そう簡単な話ではないにしても、リベロ登場後の偽9番だったクライフが、先人たちに比べて難しい状況でプレーしていたのは間違いない。それでも偽9番として活躍できた理由があり、監督としてバルセロナにそれを伝えた。

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