落日のサッカー王国ブラジル。いい選手はいてもスターがいなくなった理由

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

落日のサッカー王国ブラジル(後編)
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 ブラジル人選手のヨーロッパのクラブへの移籍の低年齢化が続いている。だが、まだサッカー選手としても、人間としても発展途上の若者が、プレースタイルも文化も環境もまるで違う国に行くのは非常に危険なことでもある。ブラジル人の場合は特にそうだろう。
 
 かつてのスター選手は、ヨーロッパのビッグクラブに移籍する時にはすでにスターだった。ブラジル代表でも活躍し、世界中にその名を知られ、チームもそれなりに彼らを手厚く扱った。しかし、今の選手はまだ評価も定まらない頃に海を渡り、外国のチームで頭角を現さなければならない。監督の言うことも仲間の言うこともわからず、家族や友人から遠く離れ、食べる物も違い、気候はブラジルに比べて寒すぎる。大人だってつらい状況のもと、彼らはこの困難に立ち向かわなければならない。

 また、スターとして獲得した選手ならば、多少の過ちには目をつぶってくれるだろうが、無名の選手にはチームもサポーターも厳しい。芽が出なければそれまで。一度の過ちが命取りになりかねない。おまけに現代はチームもサポーターも、昔以上にシビアで、ビジネスライク。成長を待つことはせず、失敗を許す余裕はなくなってきている。

フルミネンセからマンチェスター・シティに移籍する17歳のカイキ photo by Getty Imagesフルミネンセからマンチェスター・シティに移籍する17歳のカイキ photo by Getty Images このようなプレッシャーのもとでプレーするのは、ブラジル人は非常に苦手だ。周囲に期待され称賛されれば伸びるが、一度ミスして落ち込めば、気持ちはどんどんネガティブになる。その結果、メンタル的にナイーブなブラジル人より、より強靭なハートを持つアルゼンチン人やウルグアイ人が好まれ、成功することになるのだ。

 典型的な例はフィリペ・コウチーニョだ。イングランド、イタリア、スペイン、ドイツと、どこであろうがスターになれる能力を持っているのに、実際はどこのクラブでも最後には出ていく羽目に陥る。この20年で最も優秀なブラジル人選手のひとりなのに、彼はいまだに"いい選手"の域を出ることができない。

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