乾貴士、武藤嘉紀所属のエイバルの降格要因は? 小さな町の夢にサヨナラ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 エイバルはスペインの北、バスク地方にある山間部の小さな町だ。

 人気アニメ『風の谷のナウシカ』の風情と言ったらいいだろうか。緑の山々に囲まれた景色は、中世ヨーロッパの匂いを残し、畜産や林業が生業となっている。人口は3万人に満たない。

 そんな町のクラブであるSDエイバルが、1部リーグに7シーズン連続で在籍したことは、そもそも奇跡に近かった。

 エイバルは2014-15シーズン、初めて1部リーグを舞台に戦っている。本拠地イプルアスタジアムはそれを機に5000人収容(現在は約8000人収容)に拡張されたが、それまでは3000人程度の規模だった。イプルアに隣接したマンションのテラスから、人々が試合を眺める風景は風物詩のひとつ。牧歌的クラブで、自前の練習場もない(人工芝の設備はあった)。チームは今もバスで30分以上かけ、隣町の練習場まで通っているのだ。

 日本代表の乾貴士が5シーズンにわたって在籍し、今シーズンはプレミアリーグから武藤嘉紀もレンタルで入団し、日本でも名前が知られるようになった。しかし依然として、予算規模は20チームの中で2番目か3番目に少ない。それがエイバルの実態である。

 2020-21シーズン第37節。エイバルはバレンシアに4-1で敗れて、最下位での2部降格が決まった。だが、それを「失敗」とするのは酷だろう。それでも7シーズン目はなぜ生き残れなかったのか、検証する価値がある。

新加入の武藤嘉紀だったが、エイバルを降格から救うことはできなかった新加入の武藤嘉紀だったが、エイバルを降格から救うことはできなかった「(コロナ禍で)無観客の試合のダメージが大きかった。本拠地イプルアでわずか2勝。思ったようにポイントを稼げなかった」

 2015-16シーズンから6年目の采配となるホセ・ルイス・メンディリバル監督は、降格理由を淡々と説明したが、それに尽きるだろう。ホームでわずか13ポイントは20チームで最低。アウェーで17ポイントは中位に近い数字だけに、ホームでの不振は明白だ。

 イプルアは小さなスタジアムであるが故に、観客が入ると熱が充満し、一体感が出た。選手はその後押しを受け、いつも以上の力を出し切り、敵はやりにくさを感じる。ホームアドバンテージが強く出た。それを失ったエイバルは、厳しい戦いを余儀なくされることになった。

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