ピルロがピッチにいない。非難集中ユーベ指揮官に突きつけられた難問
ファンタジスタ×監督(3)
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(1)から読む>> アンドレア・ピルロ(41歳)を、「ファンタジスタ」と括るのは異論があるかもしれない。
しかし、ピルロの出発点は紛れもなくファンタジスタだった。プロになった初期は、トップ下で「天才」と呼ばれていた。そこには、多分に皮肉のニュアンスも含まれていたのだが。
「才能はあるが、プレッシャーのきついトップ下では体が小さく、戦えない」
それが当時のピルロの定評だった。プレッシングなど守備戦術重視にサッカー界が流れるなか、いわゆるファンタジスタが消えつつあった時代だ。彼も、その波にのまれても不思議ではなかった。
だが、2001-02シーズンにミランの監督に就任したカルロ・アンチェロッティは、バックラインの前のプレーメーカーとしてピルロを抜擢した。ピルロ本人の熱烈なアピールがあったという。アンチェロッティだけでなく、多くの選手たちにも、その才能は評価されていた。
ピルロはいるべき場所を見つけ、後方から選手たちを巧みに操った。そのパスは迅速にベストポジションにいる選手に渡って、攻撃が開始された。圧倒的なボールキープ力を生かし、1対1なら相手を外すことができるため、ビルドアップのキーマンにもなった。
「レジスタ」(演出家)
それがピルロに与えられた称号だった。ミランとユベントスで6度のスクデット(セリエA優勝)、2度の欧州制覇。イタリア代表としても2006年ドイツワールドカップでの優勝に貢献した。
ファンタジスタからレジスタへ――。その転身が、監督としての現在につながっている。
チャンピオンズリーグで敗退し批判を浴びたアンドレア・ピルロ(ユベントス)「自分のようにトップ下からポジションを下げ、レジスタとしてプレーできる選手は、実は数多くいるはずだ」
現役時代、ピルロはそう話していたことがあった。
論理としては簡単である。トップ下で非力さが弱点になるなら、プレッシャーが少ないバックラインの前で、チームを操る。それで攻めは潤滑になるはずだ。
しかし、現実にそうなるとは限らない。
まず、ファンタジスタは多くの場合、ゴールに直結するプレーに喜びを感じる。そのエゴが輝きにもつながる。チーム全体のプレー効率を高めるレジスタには、性格的に適さないことが多い。
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