監督が重宝する多機能型の始まり。フランスW杯のコクーから酒井高徳まで
異能がサッカーを面白くする(6)~多機能型選手編
GKを除くフィールドプレーヤーに用意されているポジションは10。この設定の中で、ひとりの選手がいくつのポジションをこなせるか。1つなのか、2つなのか。それ以上なのか。サッカー選手に多機能性が求められるようになって久しいが、日本では重要なこととして追究されてきたわけではない。何かをきっかけに話題になっても、一過性で、湧いては消え、を繰り返してきた。サッカー文化に浸透している様子はない。
多機能性に富んだ選手が多ければ、アイデアの選択肢が増えるので、監督采配は楽になる。だが一方で、選手の多機能性は、ポジションや布陣を決定する監督采配によって育まれる。まず問われるのは、練習などで選手を通常とは異なるポジションで使ってみる監督の余裕だ。それが監督自身の選択肢を広げる結果になる。
いったん披露された選手の多機能性は、メディアを通して多くの人に記憶される。あの選手は、このポジションもできれば、あのポジションもできると評判になる。異能の持ち主として世間から評価される。市場価値にもストレートに反映される。これは、できれば若いうちに獲得しておきたい付加価値だ。
「実力が同じなら、ユーティリティ性の高い選手を選ぶ」と、筆者のインタビューに答えたのはフース・ヒディンク。1998年フランスW杯、オランダ代表を率いてベスト4に進出。この大会で最もいいサッカーをしたチームと、欧州メディアから称賛された監督だ。
筆者の目に新鮮に映ったのは、ベンチに下げる選手と、別のポジションの選手を投入する戦術的な交代だった。1回の交代で、その4-2-3-1の布陣は劇的に変化。多機能性に富む選手が潤滑油となって、ピッチ上に玉突きのような変化をもたらすことになった。
オランダ代表、PSV、バルセロナなどで活躍したフィリップ・コクー 1998年フランス大会は、選手交代枠が3人に拡大されて行なわれた初めてのW杯だった。2人制に見慣れていた者にとって、これは劇的な変化に見えた。3人制に戦術的な交代を盛り込んだヒディンク率いるオランダは、まさに画期的なサッカーとして映った。スタート時と終盤とで、同じチームに見えないほど変化していた。欧州のメディアがこぞって称賛した一番の理由だ。
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