2020.12.17

選手が生き生きする戦術。アンチェロッティ監督の「職人芸」の中身

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第27回 カルロ・アンチェロッティ

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、現在エバートンの監督を務めているカルロ・アンチェロッティ。数々のビッグクラブを渡り歩き、選手を尊重し、生かすスタイルでタイトルを獲得しつづけてきた。実績、経験抜群のその職人芸を明らかにする。

◆ ◆ ◆

<中間管理職の鑑>

 カルロ・アンチェロッティほど使い勝手のいい監督も、そういないのではないか。

「選手より重要なシステムはない。会長より重要なシステムもない」

現在はエバートンの監督を務める、カルロ・アンチェロッティ現在はエバートンの監督を務める、カルロ・アンチェロッティ  その言葉どおり、スター選手を尊重して使いこなし、クラブの会長の意向に逆らうこともない。それでいて、およそ期待どおりの成績は出してくれる。

 アンドレア・ピルロを中盤の底でレジスタ(司令塔)として起用する戦術的な新機軸は生み出したが、イノベーターと呼べるほど画期的なタイプではない。システムが先にあるのではなく、軸になる選手の特徴を最大限に生かしながら全体のバランスをとるのがうまい調整型の監督だ。

 ミランを率いていた時の会長がシルビオ・ベルルスコーニ、チェルシーの時のオーナーはロマン・アブラモビッチだった。レアル・マドリードではフロレンティーノ・ペレス会長。いずれも強烈なトップだったが、よい関係を築いていたようだ。

 上(会長)に従順で、下(選手)も尊重するとなると、無理難題を背負わされそうなものだが、実際そうなっても何とかしてきた。何とかしてしまうので、余計に無理な注文が増える。

 ユベントス、ミラン、チェルシー、パリ・サンジェルマン、レアル・マドリード、バイエルンと名門クラブを渡り歩き、それぞれにタイトルを獲得してきたが、ことごとく解任もされている。それでも次のオファーが必ずあるのは、中間管理職の鑑とも言うべき手腕ゆえだろう。