ベンゲルの選手発掘術。選手が偉大になるかどうかがわかる年齢とは? (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

「トップレベルのフットボールで試合をつくり、勝利をもたらすのは、あくまで選手だ。私たち監督は、実は自分の手柄ではないことで称賛されている場合が多い」と、ベンゲルは言う。

 ベンゲルはフットボール選手が偉大になるかどうかは、23歳でわかると考えている。その年齢になれば「本当に超一流になる選手と、そうでない選手の差は明らかだ」と、彼は言う。

「超一流になる選手は他の選手にないものを持っているし、モチベーションも一貫して高い。そのレベルの選手は、金にもあまり影響されない。できるかぎり上へ行きたいというモチベーションを持っているから。ただし、そういう選手は多くはない」

 超一流の選手たちが自分を律することができるなら、監督はどれだけ彼らにモチベーションを与えられるのだろう。監督の仕事は「過大評価されている」と、ベンゲルは言う。

「毎週土曜日に最高のパフォーマンスができるよう選手たちを導けるなら、もちろん簡単だ。もし選手のモチベーションが上がらないなら、放っておくしかない。時間の無駄だ。監督は選手をやる気にさせるためにいるわけではない。どの国でも高いレベルにある選手は、自分で動機づけができる」

 ベンゲルの考える監督の仕事は、選手自身を「本質的な問題」に向き合わせる「パフォーマンス・カルチャー」をつくり上げることだ。「どうしたら、もっとうまくなれるのか? 自分は可能性を出し切っているのか? 上へ行くために何ができるのか?」と選手が考えるように背中を押してやることだという。

 監督の人となりは、選手にとってどれだけ重要なのだろう。

「選手は誰でも、自分が得たいものを監督が持っていてほしいと思う」と、ベンゲルは言う。「たとえばコミュニケーション能力、時には技術面、あるいは戦術面の場合もあるだろう」

◆「連載・ベンゲルがいた名古屋グランパス」>>

 ベンゲルはロンドンに22年間住んだが、自分は「アーセナルに住んでいた」ように感じるという。「休みを取りたいとか、遊びたいとか、そういう気持ちはまったく起こらなかった。本当に」と、彼は自伝に書いている。

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