2020.10.13

日本代表が一流舞台に初めて立った日。
サッカーの聖地に刻まれた歴史

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

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ウェンブリー・スタジアム(ロンドン)

 日本代表はウェンブリーで試合をしたことがある。1995年6月3日、アンブロカップと名付けられた国際トーナメントのオープニングマッチだ。相手は開催国のイングランド代表だった。

 その1年半前、日本代表はドーハで悲劇に見舞われ、1994年アメリカW杯への出場を逃していた。W杯にまだ一度も出場したことがない、まさにサッカー後進国だった日本が、イングランドの他にブラジル、スウェーデンが参加したこの冠大会になぜお呼びが掛かったのか。理由は定かではないが、欧州の一流の舞台に初めて立った記念すべき瞬間だったことは確かである。

2003年に着工、2007に完成した現在のウェンブリー・スタジアム 土曜の昼下がり。開始前、雨がしとしと降っていた。エルトン・ジョンの『ユア・ソング』や、ビリー・ジョエルの『ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー』等々、スタジアムに流れるポップスの名曲が、閑散としたスタンドにいい感じで反響していた。

 雨に濡れた緑鮮やかなピッチ上に、加茂ジャパンの選手たちが登場した。分不相応な場所に立ち、緊張したような面持ちにも見えたが、ボールと身体が、上等なピッチの上で触れ合う瞬間を、愉しんでいるようでもあった。Jリーグが開幕して3年目。当時の日本は芝の面でもまだ後進国だった。選手たちにとってウェンブリーは、天国のような場所だったのではないか。

 7万6000余人収容のスタンドは結局、2万1142人しか埋まらなかった。実際はもっと少なかった気がする。その後、新スタジアムも含めて十数回、ウェンブリーを訪れているが、他はいつも満杯。ガラガラのスタンドを見るのは、これが最初で最後の体験だった。

 ウェンブリーの長閑さに面食らったのは、イングランド代表選手のほうだったのかもしれない。格下相手に全力で戦うのは格好悪い。軽く6~7割でプレーして2-0ぐらいで勝ちたいと楽に考えて戦っているように見えたが、彼らも実際、そこまで芸達者ではない。