チェルシー対バルサ。老夫婦は「これまで見た中で一番の試合」と言った (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiuama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 チケットを販売している業者に話を聞けば、日本人は400人程度来るという話だった。日本からのツアー客が200人。個人旅行者100人。現地在住の日本人100人――という内訳らしい。スタンフォード・ブリッジの定員が4万人強なので、観衆の約100人に1人が日本人だった計算になる。

 大学生の旅行シーズンと重なっていたこともある。当時の大学生は4年間に2度、3度と海外旅行に出かけることも珍しくなく、欧州サッカー観戦はその一番の人気ツアーだった。ゴールシーンやダイジェスト版を確認するのがせいぜいになっている現在とは、まったく違う世界が展開されていた。隔世の感とはこのことだ。昔のほうが断然、よかったとつい言いたくなる。

 筆者が観戦したのは正面スタンドの2階席。眺望は1階の前列にある記者席より何倍もよかった。ピッチを真上から俯瞰することができた。

 チェルシーが3点連取すれば、バルサもロナウジーニョが2点入れ返しスコアは3-2となった。合計スコアは4-4ながら、バルサがアウェーゴールルールで逆転した状態にあった。5年前のチェルシーはここからズルズルと失点の山を築いたが、モウリーニョのチェルシーは堪えた。そしてジョン・テリーのゴールで再逆転に成功する。

 忘れられないのは、隣に座っていた70代後半とおぼしき老夫婦だ。チェルシーの勝利を告げるタイムアップの笛が鳴った瞬間、その顔は真っ赤に染まっていた。血管が切れてしまうんじゃないかと心配になるほど、興奮冷めやらぬ表情で、こちらに話しかけてきた。

「私はチェルシーファンひと筋だが、これまで見てきた中でこの試合が一番だった。その原因はバルセロナにある。相手がバルセロナだったから、こんないい試合になったんだ。バルセロナに感謝したい」

 ご老人は敵を讃えることを忘れなかった。ノーサイドの精神を見た気がした。劇的な勝利を見た瞬間、こうした台詞を吐ける人はザラにいない。ただし、そう言いたくなるほど、面白い試合だったことも事実だ。

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