ジョージ・ベストとクライフ。ドリブルで時代を熱狂させた伝説の名手 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

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「スピードの変化と方向の変化」

 ベストはドリブルのポイントとして2つの「変化」を挙げている。切り返しのキレが抜群だった。密集に突っ込んでいってスラロームのようにかわしていく。ボールと体の動きが一体になっているわけだが、ボールなしでも十分驚異的なバランス感覚。ベストの周囲だけ重力がないみたいだった。

 若いころのヨハン・クライフ(オランダ)は「オランダのジョージ・ベスト」と呼ばれていた。リニヤモーターカーみたいなフワーッとした急加速、ゼロ・グラビティ系の切り返しはたしかにベストとよく似ている。

 クライフもずいぶん酒飲みだったと聞いたことがあるし、ヘビースモーカーでもあった。若者世代の象徴だったのも同じ。しかし、プレーヤーとしてのキャリアは大きく違っている。2人を分けたものは何だったのかと考えてしまうが、ベストのほうがほんの少し早く世に出て、その結果がどうなったかもわかっていたのは、意外と大きかったのではないだろうか。

 ドリブルの名手はたいがい切り返しの名手でもある。ベストとクライフ以外にも多くの達人がいるが、その技自体の鮮やかさだけでなく、時代の先端を往く存在の尖り具合がキレを引き立てる背景になっていたことから、この2人が双璧だろう。ここは少し先輩のベストを切り返し王に認定したい。

<アウトサイド部門>

 普通、切り返しと言えばインサイドだが、アウトサイドでの切り返しも当然ある。アウトでの切り返しはマシューズ型とほぼ同じだが、ワンフェイクで抜くというよりもドリブルで進んでからアウトサイドで方向を変えて抜くイメージだ。

 たとえば、ジネディーヌ・ジダン(フランス)が左サイドで縦にドリブルしながら、右足アウトで急停止してマークを外す時、左足の踏み込みはない。マシューズ型なら左足の踏み込みがフェイントになるわけだが、ジダンは右足で触って縦へ抜けるような体勢から足首を返してボールに触れ、左足はいわば方向を変えるために補助的に使われているだけだ。

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