勝者なきネイマールPSG残留の全内幕。すべてのカギを握る人物とは? (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳translation by Tonegawa Akiko

 その人物とは、2022年にW杯を行なうカタールの首長タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー。花の都・パリのチームを買収し、支配し、操っているのも彼である。カタールはヨーロッパのほとんどの国より小さく、人口も少ないが、石油や天然ガスの資源が豊富で、とてつもなく金持ちだ。そして、その富のかなりの部分を彼が握っている。

 すべてを説明するには、話は2010年まで遡る。この年までバルセロナは世界のビッグチームの中で唯一、ユニフォームの胸にスポンサーをいれないチームだった。チームも選手もサポーターもそのことを誇りに思ってきた。「Mes que un club(ひとつのクラブチーム以上)」という標語は伊達ではなかった。

 そのタブーを破ったのが、カタール・スポーツ・インベストメント、つまりカタールという国家だ。彼らは巨額のオファーをし、胸に彼らのロゴを入れさせることに成功した。バルセロナは他のチームと同じレベルに成り下がってしまった。しかし2016年の契約更新交渉の際、バルセロナのバルトロメウ会長は合意金額以上の金を要求し、これにアール=サーニーは大いに立腹した。

 そして、更新を打ち切り(その後にスポンサーとなったのが日本の楽天だ)、それだけでは収まらず、カタールのヨーロッパ出先機関であるPSGに、移籍市場にいないはずのネイマールを2億2200万ユーロ(約265億円)という巨額で引き抜かせたのである。カタールは2022年W杯のメインアンバサダーにネイマールを起用するつもりであり、そのための布石でもあった。

 しかし、ネイマールはパリでは幸せではなかった。チームメイトとたびたび諍いを起こし、サポーターと対立し、練習に遅れ、フランス語も一向に覚えなかった。ネイマールは移籍を望んだ。彼が望むのはただひとつ。バルセロナへの帰還だった。ネイマールはその思いを隠そうとはしなかった。

 ラブコールを受けたバルセロナは、当初は呆れていた。あんなひどい仕打ちをして、どの面を下げて戻って来るのか、と。感謝もせず、挨拶もせず、後ろ足で泥をかけるように出て行ったことを、誰もが忘れてはいなかった。あんな裏切り者に大金を使う必要はない。

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