バルサ監督が語るデータ活用術。「メッシに伝えること、任せること」 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 バルベルデとデータ分析チームは、1週間のほとんどを次の対戦相手の研究に費やす。彼は僕に、自分の得たものをどのように選手に伝えているかを語ってくれた。

 バルサのプレースタイルは、どの試合でもほとんど変わらない。相手の陣地でパスゲームを展開することをめざし、危険な位置でボールを失うケースは6回までに抑える。これが6回あれば、相手に決定的なチャンスをだいたい3回与えてしまっている。危ない位置でボールを失うことが6回を超えたら、バルサはいいプレーをしているとは言えないという。

 特定の試合に向けて戦術を組み立てることは「気休めにすぎない」と、バルベルデは言う。

「選手が何も考えていないときでも、戦術があれば助けになる。アメリカの作家がこんなことを言っていた──何をやってもうまくいかないとき、戦術があれば自分の居場所がわかるし、やるべきことがわかる。うまくいっているときには、何も考えず、戦術など忘れていい」

 いつもバルベルデは、試合に臨む選手たちに、相手チームの選手がどこにポジションをとるか、どの選手が守備の穴になりそうか、相手は試合のどの段階で体力を落とすかを伝える。しかしバルベルデは、自分のアドバイスには限られた価値しかないと思っている。

「試合開始直後には、驚くことが必ずある。相手がどのような準備をしてきたかを知らないから。先日のビルバオ戦では、とても強いプレッシャーを何度か受けると思っていたが、実際にはそれほど強いわけでもなかった。当てがはずれて、試合の立ち上がりはどこか浮き足だっていた」

 試合が始まると、バルベルデはほとんど傍観者になる。

「フットボールはどのスポーツと比べても、監督が力を及ぼせる範囲が狭い」と、バルベルデはあきらめたような笑みを浮かべる。

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