トレーナーも驚く長谷部誠の
試合前のルーティン。「プロの鑑」 (2ページ目)
フランクフルトに加入した黒川は、日本とドイツでは「トレーナー」の役割が異なることに気づく。日本で「トレーナー」といえば、治療のみならず筋力トレーニングの指導まで行なうアメリカの定義に倣っているのに対して、ドイツでは「フィジオセラピスト(理学療法士)」としての役割が一般的だという。
つまり、ドイツ人の"フィジオ"の多くは、自身を「治療の専門家」とみなしているのだ。治療に専念するために、グラウンドに出たがらないトレーナーも多いという。
フランクフルトでメディカルトレーナーを務める黒川「こっちのフィジオは、資格や自分の専門性があるところで勝負している。治療なら治療の専門家としてアピールして、『それ以外の分野は自分の領域ではない』と。私が現場の監督さんやスタッフから気に入られている点は、ドイツ人のフィジオがやらない部分を埋めているからなのかな、と思います。たとえば、どうすればトレーニングが円滑に進むのかを考えたりすることですね」
役割分担がハッキリしている組織で生き残るためには、自分の"色"を出すことが重要だ。フランクフルトでは、選手自身が施術の担当トレーナーを選ぶシステムを採用している。そのなかで他のトレーナーたちとの違いを生み出すために、黒川は電動器具を使わず、鍼と指での治療に専念しているという。
また、常にトレーニングに帯同することによる「選手との距離の近さ」も、黒川の特徴としてチームに認識されているようだ。
「練習中はなるべく選手の近くにいたいと思っています。練習を見て動きを覚えるのも勉強ですし、選手の動きが普段と違うと気づいた時に『今日はどうした? 痛みがある?』と会話をすることで、そのまま治療という流れにもなる。そういうことを最初からやっていたので、今は選手から評価されていると思いますね」
チーム内で評価を上げた黒川は、試合の勝敗に直結する仕事を担っている。メディカルトレーナーはケガ人を治療するトレーナーと、試合に出られる選手の身体のメンテナンスを行なうトレーナーに分かれるが、現在の黒川は直近の試合に絡む主力選手たちを含む、約半数の選手のケアにあたっているという。
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