アーセナルの宿泊先から酒を撤去。ベンゲルが英国式サッカーを変えた (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 眼鏡をかけた無名のフランス人が1996年にアーセナルにやって来たとき、イングランドのファンは大丈夫なのかと思ったものだ。ところが数カ月のうちに、彼はフットボールを変えた。「世界に向けてドアを開け放したような気分だった」と、ベンゲルは後に語っている。

 そのころイングランドのフットボールには、欠けている知識がたくさんあった。たとえば「前ベンゲル時代」のアーセナルの選手の食事はひどいもので、トレーニングの前にボリューム満点のイングリッシュ・ブレックファストをたいらげたりしていた。

 あるときアーセナルの選手たちは、ニューカッスルで試合を終えてロンドンへ戻るチームバスの中で「大食い大会」を開いた。センターバックだったスティーブ・ボールド(現・助監督)が、実に9人前のディナーを食べて優勝した。

 ベンゲルは、もともと細かいところに気がつくタイプだったが、日本で仕事をしたことで、この能力に磨きがかかったようだ。彼は野菜や魚を中心とした日本式の食事をとり入れ、遠征で選手がホテルに泊まるときは、あらかじめミニバーを空っぽにした。

 他の分野でも、彼はパイオニアだった。クレアチンのような新しいサプリをいち早く使ったし、選手のパフォーマンスを分析するために1980年代から統計を活用した。

 生まれながらのコスモポリタンである彼は、グローバルな移籍市場を熟知していた。まだイングランド人の監督がワールドカップを視察することも珍しかった時代に、ベンゲルの国際感覚は抜きん出ていた。

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