2018.05.02

アーセナルの宿泊先から酒を撤去。
ベンゲルが英国式サッカーを変えた

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】さらば、ベンゲル(前編)

 スタジアムを離れてしまったアーセン・ベンゲルの姿を目にすれば、彼がアーセナルの監督という仕事をどれだけ愛していたかがわかることだろう。ベンゲルは22年にわたってアーセナルを指揮し、今シーズン限りでの退任を発表した。

今季限りでのアーセナル退団を発表したアーセン・ベンゲル photo by Getty Images

 ベンゲルは、自分がフットボール界で最高の仕事に就いていると知っていた。ジョゼ・モウリーニョのような監督のほうが獲得したトロフィーは多いが、言ってみれば彼らは一時雇いの「派遣社員」のようなもの。現代のビッグクラブの中でぶつかり合う、多くの力のひとつでしかない。

 ベンゲルは最後の「総監督」だった。ビッグクラブをひとりで動かすという知的な喜びを日々感じていた。ずいぶん先のアーセナルの未来まで考えていたかもしれない。

 ベンゲルは試合中、しかめ面でベンチに座っていた。記者会見は皮肉混じりの礼儀正しさでこなし、身だしなみには一分のすきもなかった。

 フットボール界の重鎮が集うような五つ星ホテルのバーに行くと、ベンゲルは常にグループの中心にいた。いくつもの言語で面白い話をして、誰かが新しいアイデアを語ると真剣に耳を傾けた。そうかと思えば(もう60代だというのに)、リオデジャネイロのビーチでフットバレーの熱戦を繰り広げたりもした。

 アーセナルの敗戦はどんなものでもベンゲルの心に深く刻まれたが、翌朝にはオフィスでマッチデータを楽しそうに眺めていた。彼が本当の勝者だった時期は長くなかった。だが、つねにフットボール界で最も興味深い人物だったと言えるだろう。