ナポリに魔法をかける、元銀行員サッリ監督の戦術「トータル・ゾーン」 (3ページ目)

  • 宮崎隆司●文 text by Miyazaki Takashi
  • photo by Getty Images

 この、「守るべきゴールの位置」の概念がない、もしくは曖昧な「ゾーン・ディフェンス」では、ボールホルダーを誰がマークするのかという判断が遅れ、それに伴って各選手のポジションにズレが生じることが多い。そのスキをつかれることで守備が後手に回り、ピンチを招いてしまうことになる。

 ナポリの試合を目にする機会があれば、ボールを奪われた瞬間から5秒以内に「攻から守」へ転じる「ネガティブ・トランジション」の場面で、ナポリの選手たちがどう動いているかに着目してもらいたい。先述の基準に即して守備の態勢を整える様子が見られるはずだ。どちらが正しいかという話ではなく、ナポリとは真逆の「マンマーク」を戦術の絶対的な柱とするアタランタ(ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督)と比較すると、その差はより明確になるだろう。

 また、ナポリはDF陣の位置が極端に高い(DF陣4枚が相手陣内でプレーすることも多い)のも大きな特徴だ。1タッチ&ダイレクトパスの交換で相手の守備網を崩すことを攻撃の基本とし、いざボールを失っても可能な限り高い位置=相手ゴールに近い位置でボールを奪い返すために、4−3−3の布陣を可能な限りコンパクトに保っている。

 守備的か攻撃的か。パスサッカーか、それともカウンター重視の戦い方か。フットボールの戦術はそういった二元論で語られがちだが、攻撃と守備は常に表裏一体の関係にある。つまり「どう攻めるか」と「どう守るか」はイコールで結ばれている。

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