ナポリに魔法をかける、元銀行員サッリ監督の戦術「トータル・ゾーン」 (2ページ目)

  • 宮崎隆司●文 text by Miyazaki Takashi
  • photo by Getty Images

 いかにゾーンで守ろうと、通常は「マンマーク」と併用されるのが常だ。多くの監督が採る戦術は、ゾーンとマンマークをミックスしているという意味で、イタリアでは「ゾーナ・ミスタ(ミックス・ゾーン)」と呼ばれる。

 相手ボールの局面では、自らがマークすべき相手の位置に応じてポジションを取るのが一般的だが、サッリの「トータル・ゾーン」では考え方が異なる。端的に言ってしまえば、すべての選手が守備のポジショニングを決める際に相手選手の位置は考慮しないのだ。

 最も重視されるポジショニングの基準は「ボールの位置」。相手がキープするボールが横に2メートル動けば、守る側の全員が同じ方向へ2メートル動くことになる。この考え方は通常の「ゾーン・ディフェンス」と同じではあるものの、当時のエンポリも現在のナポリも、その次に優先される基準が他のチームとはまったく違う。

「マンマーク」では、基本的に「ボールの位置→相手の位置」の順に判断し、ポジショニングを決める。そして、通常の「ゾーン・ディフェンス」では「ボールの位置→味方の位置→相手選手の位置」と優先順位が変わる。

 これがマウリツィオ・サッリ率いたエンポリ、そして現ナポリでも、「ボールの位置→守るべきゴールの位置→味方の位置→(相手選手の位置)」となる。相手のボールホルダーに最も近い選手が「ボールとゴールを結ぶ線上」にポジションを取り、それによって他のチームメイトの立ち位置も決まるのだ。

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