ナポリに魔法をかける、元銀行員サッリ監督の戦術「トータル・ゾーン」 (4ページ目)

  • 宮崎隆司●文 text by Miyazaki Takashi
  • photo by Getty Images

「どう攻めるか」という解から逆算して導き出されたのがサッリの「トータル・ゾーン」であるとすれば、その攻撃力は今季のセリエA最多得点(94得点)という数字が証明している。DFラインを高く保つことで、相手に広大なスペースを与えてしまうリスクも伴うが、ナポリはユベントス(27失点)、ローマ(38失点)に次ぐ39失点に抑えている。

 ボールを奪われてからの態勢の立て直しの速さと、精度向上を徹底したサッリのこだわりがそれを可能にした。ナポリの選手たちの動きを目にしている現地イタリアの専門家たちは、「国内最強はユベントスだが、最も美しいのはナポリ」と口を揃える。おそらく、その見立てに間違いはないだろう。

「極貧クラブ」のエンポリを率いて3年目の2015年当時、愛煙家のサッリは、自らが取材場所に指定したスタジアム内の会見室を煙で充満させながら、私にこう語った。

「カネがないならここ(アタマ)を使えばいい」。
 
 サッリは現役を退いた後に銀行員として仕事をする傍ら、アマチュアリーグで指導歴を重ねてきた。長く下のカテゴリーで過酷な現場を生き抜いてきた彼は、与えられたチームのポテンシャルを最大限に引き出す術(すべ)を知っている。

 今季開幕前に、昨季のセリエA得点王(36ゴール)であるゴンサロ・イグアインを売却。そんなナポリがリーグ最多の得点力を維持し、首位ユベントスと勝ち点5差の3位でシーズンを終えると誰が予想できただろうか。
 
 来季、彼の「トータル・ゾーン」はどのように変化し、進化していくのか。そして、ユベントスの連覇を阻むことができるのか。「最も美しいナポリ」が最強の称号を得るまでの歩みをこれからも追っていきたい。

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