CL決勝は負けてなお強し。闘将シメオネとアトレティコの確かな成長 (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki photo by Nakashima Daisuke

 それは、後半開始直後のことだ。

 FWフェルナンド・トーレスがペナルティエリア内で倒され、アトレティコは同点に追いつくチャンスを得た。だが、せっかく得たPKをFWグリーズマンが外すと、すでに試合は進んでいるというのに、絶好の同点機を逃したショックから、ゴール裏のアトレティコ・サポーターがしばらく静まった。

 すると、ベンチ前のシメオネは、やおらゴール裏方向へ歩み寄り、横に伸ばした両腕を大きく何度も上下させ、サポーターの奮起を求めたのである。その瞬間、ハッと目が覚めたように、サポーターが再び活発に動き出したのは言うまでもない。

 スタンドの空気は間違いなく選手に伝染する。サポーターが嫌なムードを引きずっていたら、アトレティコはそのままおとなしくなっていたかもしれない。

 シメオネは、試合の流れが大きく変わりかねなかったところで、もう一度力ずくで流れを引き寄せた。闘将と評されるシメオネの、優れたリーダーとしての才覚がうかがえた場面だった。

 結果的に、アトレティコは同点に追いついたものの、最後まで決勝点が奪えず、PK戦の末に敗れた。

 それでも、アトレティコは2年前と比べて間違いなく強くなっていた。横綱相撲でレアルを土俵際まで追いつめた。

「PKで負けはしたが、我々は勝利に値する試合をした」

 試合後、シメオネが口にした言葉は、強がりでも何でもない。わずかな偽りもない本心だったに違いない。

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