復活の兆し。香川真司にスタンディングオベーション

  • 了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko
  • photo by Getty Images

 試合前の選手紹介。場内アナウンスが、いつものように観客をあおりながら各選手を紹介していく。アナウンサーはたいていファーストネームを呼び、スタンドがファミリーネームで応える、いわばコールアンドレスポンスのような形だ。

 ドルトムントの場合、スタンドが最も盛り上がるのは選手の名前が呼ばれた時ではなく、選手が紹介され終わってからクロップ監督が呼ばれる時だ。クロップの求心力と人気を感じさせる。だが、2月14日のマインツ戦、スタジアムアナウンサーが特別大きな間をあけて静寂を呼び込み、そしてスタンドの爆発を誘ったのはマルコ・ロイスだった。

マインツ戦に先発出場した香川真司マインツ戦に先発出場した香川真司 マインツ戦を前にした2月10日、ロイスはドルトムントとの2019年夏までの契約延長にサインをした。昨年は負傷がちで、ブラジルW杯出場を逃すなど不運に見舞われたが、ポテンシャルも市場評価も高い彼に移籍の噂は絶えなかった。ロイスが契約を延長した背景には、クラブが大型スポンサーを獲得したことで高額提示が可能になったこともある。それでもツォルクSD(スポーツ・ディレクター)が「彼はどこにでも移籍できた」と言うほど、ビッグクラブから好条件の話があったようだ。

 それほどの選手だけに、ドルトムントにとっても簡単には手放せない存在だ。一時は最下位にまで落ちた危機的なシーズンに移籍を許したとなれば、サポーターたちへのショックは計り知れない。ロイス本人にしてみれば、"もっと欧州のトップクラブで高サラリーを得ることもできる""こんな不安定なクラブに長居する必要はない"と思っても不思議ではない。だが、ロイスはドルトムントを選んだ。

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