ブラジルの名将スコラーリはどこで失敗したのか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

小宮良之のブラジル蹴球紀行(16)

「ネイマールの不在に関しては、すでに乗り越えている。我々のモチベーションは決勝へと向かっているよ。ネイマールは彼の役目を果たした。今度は我々の番だ」

 ドイツとの準決勝を前にして、ブラジルのルイス・フェリペ・スコラーリ監督(愛称はフェリポン)はそう堂々と語っていた。選手たちの心のケアは、チームに帯同するメンタルトレーナーもサポートしていると言うが、フェリポンは言葉に熱を込めるのに長(た)け、モチベーターとして他の追随を許さない。正真正銘の勝負師である。

ドイツ戦後、オスカルを慰めるフェリペ・スコラーリ監督(ブラジル)ドイツ戦後、オスカルを慰めるフェリペ・スコラーリ監督(ブラジル)「記者会見でのフェリポンは、"絶対勝つ"というような煽る発言はしない。むしろ負けの可能性を残したような言い方をする。だけど、ロッカールームでは偏執的に勝負にこだわる。まさに勝つためだったら何でもするような人さ」

 知り合いのブラジル人記者は、そう人となりを語っていた。

 フェリポンはかつてジュビロ磐田の指揮を執っていた時代があるが、彼はこのときも老獪で狡猾だった。ハーフタイムにはぎりぎりまで自軍選手をピッチに送り出さず、待っている敵をいらつかせた。巌流島の宮本武蔵と佐々木小次郎のような心理戦まで駆使したのだった。勝負事に対しては一切、手を抜かない。

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