貧困、暴力、腐敗...。ブラジルのサッカーが示しているもの (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ブラジルのフットボールは、この国の暴力も映し出す。ファンが殺されることは珍しくない。ときにはテレビが生中継しているときに事件が起こることもある。

 さらにブラジル経済は、選手の輸出に依存している。ブラジルの優秀な選手はほとんどすべて海外でプレイしており、母国の貧しいファンとは疎遠になっていく。ドアルテの本には、偉大な左サイドバックだったロベルト・カルロスが、自分の高価なロレックスの腕時計を満足げに眺めて言った言葉が引用されている。「いつもマンション1戸分を腕にはめているんだ」

 ブラジルの腐敗も反映している。ブラジルのフットボールを牛耳るお偉方たちの前では、ヨーロッパのクラブも健全な運営のお手本のように見えてくる。ブラジルの腐りきったフットボール連盟(CBF)は、ある一族が支配してきた。1958年から2012年にかけて大半の期間は、まずジョアン・アベランジェが、後には彼の娘婿リカルド・テイシェイラが君臨した。

 ゴールドブラットが書いているように、今回のワールドカップのために立ち上げた最初の組織委員会のメンバーには、テイシェイラ自身、彼の娘、それに「彼の弁護士、彼の報道担当、彼の個人秘書と身の回りの世話をする雑用係、2001年に議会がフットボール界の調査に乗り出したときに彼に助言した男」が入っていた。軍事政権時代にブラジル銀行の頭取を務めていた男もメンバーだったが、政府の人間は誰も入っていなかった。今年のワールドカップは、テイシェイラの子どものようなものなのだ。

 テイシェイラの後にCBFのトップになったオゼ・マリア・マリンは、あるユース大会の後の表彰式で、優勝メダルをこっそりポケットに入れたことがある。大会開幕が迫った今でも、ワールドカップは「利益より損失をもたらす」と考えるブラジル人が世論調査で大半を占めているのも納得がいくだろう。

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