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ファーガソンが明かしたマンチェスター・ユナイテッドの実像

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】アレックス・ファーガソンの自伝を読む(前編)

「今まで教えた選手のなかで、自分がミスをしてもまったく気にもしなかったのはデイビッド・ベッカムだけだ」

 アレックス・ファーガソンは10月末に出版した自伝に、そう書いている。「彼は自分がひどいプレイをしていても、全然気がつかない。ある意味で大変な才能だ」

自伝の発売に合わせて行なわれたアレックス・ファーガソンのサイン会には多くのサポーターが詰め掛けた(photo by GettyImages)自伝の発売に合わせて行なわれたアレックス・ファーガソンのサイン会には多くのサポーターが詰め掛けた(photo by GettyImages) こうした人物描写がこの自伝に読むべき価値をもたらしている。ファーガソンは人間を理解している(グラスゴーでパブを経営していたときに身につけた技術だ)。そして今年5月に勇退するまで27年間にわたり、マンチェスター・ユナイテッドで多くの人間を観察してきた。

 たとえばフィル・ネビルは、こんな無茶が言える相手だという。「フィル、あの丘に登ってくれ。戻ってきたら、そこの木を切ってくれ」。ネビルは答える。「了解です、ボス。チェンソーはどこでしたっけ?」。ポール・スコールズは「練習場で用を足しているチームメイトの頭の、どの髪に当てるかまで狙って」長く正確なボールを蹴ることができる。オーストラリア出身のGKだったマーク・ボスニッチは「プロ失格者」で、ロイ・キーンの気まぐれは「ロッカールーム全体の空気を左右した」という。

 ジャーナリストのポール・ヘイワードとの共著であるこの自伝は、残念ながら多くの読者が望むものを小出しにしかしていない。それは「名将のマネジメント術」の秘訣だ。その意味で、この本はあくまで回顧録であって、ビジネス本ではない。

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