【イングランド】アーセナルは再び頂点を狙える位置に返り咲けるか (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 批判派はこの契約について、エティハド航空がシティのオーナーたちの出身国であるUAE(アラブ首長国連邦)の企業であることに注目している。FFPはオーナー企業による赤字補填も禁止しているが、シティの契約はその条項に違反しているのではないかというのだ。ただしUEFAが、3億5000万ポンドは法外な額だとか、シティのオーナーとエティハドはつるんでいるという訴えを起こしたとしても、その間も契約自体は続くことになる。

 そうなるとFFPは、アーセナルが望むほどにはフットボールを変えられないことになる。「FFPに抜け穴があるかどうか? おそらくあるだろう。私たちはFFPをあてにしていない」と、ガジディスは言う。

 こうみていくと、フットボール経済が崩壊しても、アーセナルのユース組織が才能ある選手を次々と育てても、FFPが全面適用されても、どれもベンゲルには有利にならないことがわかる。プラス面に目をやれば、ガジディスはアーセナルがもっと裕福になると予想している。長く続いていたスポンサー契約がいくつも切れて、代わってもっと高額の契約を結ぶためだ。来年の収入は3億ポンド(約435億円)に達するとみられている。

 一方で、クラブの負債にかかる利息は1350万ポンド(約20億円)と、そこそこの額に落ち着き、負債そのものも9890万ポンド(約144億円)となる。スタジアム関連の負債も減っている。「危険地帯を通り抜け、わずかながら安全なエリアに入った」と、ガジディスは言う。

 しかし新しい収入源を見つけているのは、ほかのクラブも同じだ。なにしろアジアやアメリカで、数えきれない人たちがプレミアリーグを見はじめている。あれほど悲観論があふれていたのに、イングランド・フットボールの上昇機運はまだ始まったばかりなのかもしれない。

 だとすればアーセナルが新たに見つけた収入源は、トロフィーを狙える位置に返り咲くには不十分だ。その位置に戻れるのは、ベンゲルの時代ではない。
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