2013.02.21

【イングランド】アーセナルは再び頂点を狙える位置に返り咲けるか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦、アーセナルはバイエルンに1-3で完敗。厳しい表情のベンゲル監督(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】倹約家ベンゲル(後編)

 今や「倹約」はアーセナルの文化になっている。かつては選手に好きなだけ金を使い、「イングランド銀行クラブ」とまで呼ばれたアーセナルが、ここ数十年は慎重な姿勢を保っている。この新しい伝統が現在のアーセナルの筆頭株主であるスタン・クロンケにとって魅力だったことはまちがいない。NBAや米メジャー・サッカーリーグのチームも所有するクロンケは、スポーツクラブをまっとうなビジネスととらえている。

 アーセナルの最高経営責任者であるイバン・ガジディスは、僕にこう語った。「私たちは手元にある金しか使わない。フットボールの世界では慎重派とみられてしまうが、そのことから私たちがどういう世界にいるかがわかる」。アーセナルの「持続可能な方針」は──と、ガジディスはつけ加えた。「今の世界経済を考えたとき、もっと多くの人に知ってもらっていいはずだが、フットボール界はバブルな空気から抜け出していない」

 事実、ライバルクラブが金を使いすぎていることで、ベンゲルの倹約ぶりには拍車がかかった。フットボール界では多くの専門家が、クラブは負債を払えなくなったら倒産すると考えている。とくに金融危機が世界を襲い、大きな金融機関が破綻して以降は、そんな声が強まった。「この流れが続けば、ビッグクラブが倒産するのも時間の問題だ」と、UEFAの会長ミシェル・プラティニは2009年に語った。

 ミシガン大学のスポーツ経済学者で僕と一緒に『「ジャパン」はなぜ負けるのか』(邦訳・NHK出版)を書いたステファン・シマンスキーは、アーセナルは市場が低迷して優れた選手の値段が下がるのを待っていたのではないかと言う。そんな瞬間はついに訪れなかった。やがて明らかになったのは、フットボールクラブは普通の企業と違うということだった。

 一般の企業なら、負債をため込めば倒産する。ところがフットボールクラブは、負債をため込んでも生き延びる。イングランドのクラブが消えた最後の例は、大恐慌時代の1931年に破綻した小さなクラブ、ウィガン・ボロだ。残りのクラブは大恐慌にも第2次世界大戦にも景気後退にも、会長の汚職にも監督の無能にも、最近の金融危機にも耐えて生き残った。これだけ長期にわたって安定性を維持している業種はほかにない。