【ブラジル】最強のブラジル代表はなぜW杯で優勝できなかったのか

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Getty Images

 1998年フランスW杯決勝、フランスに大敗し、頭を抱えるキャプテンのドゥンガ 1998年フランスW杯決勝、フランスに大敗し、頭を抱えるキャプテンのドゥンガ最強の代表が崩壊するとき(1)~ブラジル編

 W杯予選で2位以下に大差をつけて首位をゆくザックジャパン。これまで以上に安泰な成績を収めるその姿を、メディアは「史上最強」と褒めそやしている。だが、サッカーは常に成長を続けるスポーツだ。4年前、8年前より力が劣る代表チームは稀(まれ)。比較対象を過去に求めるのはナンセンスの極みである。「史上最強」 は、まさに非サッカー的な表現だ。比較対象は、予選で同じグループを争う敵でもない。現時点における世界になる。

 しかし過去に目を向ければ、このチームは世界に対して「最強」だと、確信を持って言いたくなる圧倒的なチームは存在した。97年のブラジル代表はその筆頭だ。非サッカー的な表現を承知で言えば、ブラジル代表史上最強。僕の目にはそう見えた。

 98年W杯とユーロ2000を立て続けに制覇したフランスも強かった。フランス代表史上はもちろんのこと、世界に対しても最強だった。しかし、最強は永遠のものではない。そしてブラジルもフランスも、最強の座からすべり落ちた原因は自らの中に潜んでいた。

 メンバーの固定化。最強を維持しようとするあまり、最強選手でメンバーを固めすぎたことがその一番の原因になっていた。とりわけ97年のブラジルにはその傾向が強かった。

 当時のブラジル、フランス両国に共通したのは、予選が免除されていた点だ。94年W杯に優勝したブラジルは、その時点で98年W杯出場の権利を得ていた。 フランスも98年W杯で優勝した瞬間、02年の本大会切符を得た。自動出場の権利は、今でこそ開催国だけに与えられるものだが、02年までは前回優勝国にも与えられていた。それが両国には結果的にありがた迷惑なものになった。

 欧州と南米の予選は、アジア予選に比べて遙かに厳しい。フランス、ブラジルといえど、楽なゲームは少ない。日本がアジア3次予選で対戦するような貧弱なチームは一つもない。予選は文字通りの強化試合になる。

 2002年W杯で優勝したブラジルは、その南米予選で大苦戦を強いられた。そこで5敗もした。順位は10チーム中3位ながら、プレイオフに回った5位ウルグアイとの勝ち点差は3。わずか1ゲームの差だった。ブラジルはその苦戦を良薬にして世界一に輝いた。

 一方、予選を免除されたその4年前、98年大会のブラジルは、それと真逆の結果に終わった。結果は準優勝ながら、内容はその前年、97年の戦績とは比べものにならぬほど低調だった。一言でいえば、ピークが1年ずれたのだ。

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