【ドイツ】途中交代の乾貴士、注目されるが故の苦悩

  • 了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko
  • 木場健蔵●写真 photo by Koba Kenzo

フュルト戦に先発するも、後半途中で退いた乾フュルト戦に先発するも、後半途中で退いた乾 フランクフルトの試合で必ずスタンドから聞こえてくる歌がある。陽気なメロディに乗せて、歌詞はひたすら「ヨーロッパカップ!!」と続くものだ。ヨーロッパカップとはチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグを指している。つまりは最終的に6位以上になろうぜ、という少々気の早い歌だ。ブンデスリーガで上位を走り、現実にチャンピオンズリーグを狙える順位(4位以内)につけているにもかかわらず、サポーター達は控えめだ。
 
 実際、開幕から快進撃を続けてきたフランクフルトがここのところ少々足踏みをしている。前節はシュツットガルトに敗れ、そして第10節のフュルト戦はホームで引き分け、順位をひとつ落とし3位となった。

 乾貴士は「最下位相手で勝たなくてはいけない試合だった」と厳しい表情を見せた。一方、フェー監督の表情は対照的だ。リラックスした様子で、しかしいたって生真面目に、「目標は残留だから勝ち点1をとれて良かった」と試合後の記者会見で語った。

 よくよく考えれば、この試合はともに今季2部から昇格してきたチームによる対決で、両者痛み分けとなったに過ぎない。レバークーゼンを置き去りにし、ドルトムントをかわし、シャルケと並んでバイエルンを追いかけている現状は、フランクフルトにとって上出来。冷静になればサポーターの歌う「ヨーロッパ カップ」も、控えめでもなんでもなく、大きな目標なのだと理解できる。

 チームと同様、最近の乾自身も苦しんでいるように見える。「プレイに迷いがある」と浮かない表情だ。

 先発は続けているものの、前節は45分、今節は53分で、いずれも一番手でベンチに下がっている。

 乾は序盤戦の快進撃のまぎれもない立役者として、ドイツメディアでも注目度の高い選手だ。見る者の目を奪うような鮮やかなボールタッチ、細かいドリブル、その割にパワフルなシュートは"魔法使いのネズミ"というニックネームもつくほど。要するにとても愛されているのだ。

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