【EURO】04年、監督の采配が生んだチェコ対オランダの大逆転劇 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Gettyimages

 いきなりオランダが2点先取した理由は、監督が斬るか斬られるかの撃ち合いモードを最初から選択したことと大きな関係がある。オランダはその時、優勝候補の筆頭に推したくなる圧倒的な力を見せていた。

 だが、うっかりミスが出る。フィリップ・コクーの自爆パスで、チェコに1点をプレゼントしてしまう。

 びっくりしたのは、その直後。チェコ監督、ブリュックナーが行なったメンバー交替だ。ロッベンにちんちんにされていた右サイドバック、グリゲラをベンチに引っ込め、攻撃系の選手であるスミチェルをピッチに送り込む作戦を取ったのだ。

 それまで4-1-4-1と4-1-3-2の中間型の布陣を敷いていたチェコ。1トップコラーの脇で構えるミラン・バロシュをFWと見なせば4-1-3-2、MFと見なせば4-1-4-1になるが、いずれにしてもその右サイドは、それまでグリゲラとポボルスキーの2人でカバーしていた。

 それがこの交替を機に、ポボルスキーとスミチェルのコンビに変化した。ポボルスキーが右のサイドバックの位置に下がったのなら驚くことはなにもない。若干攻撃的に移行した程度になるが、実際の姿はそうではなかった。

 右サイドバックの位置で構える選手は、どう見ても存在しなかった。交替で入ったスミチェルは右ウイングの位置で、ポボルスキーはその少し下で構えた。布陣表記で表せば3-2-4-1となるが、問題は、3人に減った最終ラインが、その横幅を均等にカバーしなかったことにある。3人のDFは4バック時のポジションと同じ位置で構えた。オランダで最もキレキレだった右ウイング、ロッベンに誰もマークをつけなかったのだ。

 右サイドの2人はロッベンの存在を無視するように高い位置をキープした。ダブルウイング状態で、オランダ陣内に攻め込む態勢を取った。

 3-3-3-1(オランダ)対変則3-2-4-1(チェコ)。撃ち合いを仕掛けてくるオランダに、チェコ監督、ブリュックナーは、それ以上に勇敢なサッカーで撃ち返した。

 ここからの何十分間は、ノーガードの殴り合い。ハイレベルかつエンタメ性にも十分すぎるほど富んでいた。

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