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【EURO】04年、監督の采配が生んだチェコ対オランダの大逆転劇 (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Gettyimages

 その時、試合をリードしていたのはオランダで、時は後半21分だった。

「逃げ切りたい」

  アドフォカートにはその気持ちが増していた。撃ち合いを避け、守備を固めて、手堅く勝ち点3を狙いにいく作戦に転じれば、決勝トーナメント進出は濃厚になる。ロッベンを下げ、ボスフェルトというフェイエノールト所属の守備的MFを投入すると、彼の頭の中は容易に想像できた。

「守備固め」

 オランダは攻撃サッカーの国だ。1-0で守って勝つなら、いっそ2-3で負けた方がスッキリするという人が少なからずいるお国柄だ。彼らにとってロッベンを下げ、ボスフェルトを投入する作戦は愚の骨頂といえた。実際その瞬間、アベイロの「ムニシパル」を埋めたオレンジ色の大群から、大きな溜息がどっと漏れた。ブーイングも飛び出した。近くにいたオランダ人記者は「プッ」と、落胆の息を吐いていた。

 そして彼らは慣れない逃げ切り作戦に、次第に固まっていった。スタジアムには変な緊張感が走ることになった。逃げるオランダ。追うチェコ。どう見ても分はチェコにあった。オランダ人はイタリア人ではなかった。

 チェコは71分にミラン・バロシュが同点ゴールを叩き出すと、終了2分前にスミチェルが逆転ゴールを叩き出す。

 するとブリュックナーはベンチから飛び出し、ある指示を与えた。チェコはディフェンスの態勢をノーマルな4バックに戻し、残りの時間を戦った。

 タイムアップの笛が鳴った瞬間、ガクッとへたり込むオランダ選手。対するチェコはベンチのメンバー全員がピッチに飛び出し、歓喜を爆発させた。まるで決勝戦のフィナーレを見るような光景だった。

 ブリュックナー対アドフォカート。名勝負のカギは両監督が握っていた。監督采配が、ここまで試合に影響を及ぼした試合も珍しい。

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