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【イングランド】マンU、シティ...今季のビッグクラブの監督を評価する (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

 チェルシーについては、チャンピオンズリーグでの優勝を大きくとらえすぎないほうがいい。ヨーロッパのビッグクラブのほとんどは、毎年チャンピオンズリーグで最後の16チームに残る。ラウンド16からは決勝まではほんの数試合だ。すてきな夜がひと晩かふた晩あり、ちょっとした幸運がひとつかふたつあれば、どのチームが決勝に進んでもおかしくない。さらに今回のチェルシーのように、決勝でもいくつかの幸運に恵まれるケースもある。チャンピオンズリーグには、どう転んでもおかしくない要素が多分に含まれている。

 チームの本当の力が測れるのは、1シーズンに及ぶリーグ戦のほうだ。そのリーグ戦で、チェルシーはニューカッスルより下位に終わった。プレミアリーグで選手年俸総額では2位のチームが6位にしかなれなかった。

 かなり衝撃的な結果である。しかし、3月に監督を解任されたアンドレ・ビラス・ボアスを責めるのはまちがっている。チェルシーの問題は、彼が監督に就任するはるか前に始まっていた。

 ロマン・アブラモビッチは2003年にチェルシーを買収して以来、金の力でチームを強くしようとしてきた。数年前、チェルシーの理事のひとりは僕に言ったものだ。「うちのクラブはいいビジネスになるはずなんだが、選手の年俸の問題があってね。給料の問題は本当に大きいよ」

 2004~10年までのプレミアリーグの選手年俸の総額のうち、チェルシーは実に14%を占めている。これはシマンスキーが分析した37年間にイングランドのトップリーグにいたどのクラブよりも大きな数字だ。それなのにチェルシーは2006年以降、タイトルを1度しか獲得していない。ジョゼ・モウリーニョの後のチェルシーの監督たちは明らかに、選手年俸に見合う成績を残していなかった。

 ビラス・ボアスはもうひとつ問題をかかえていた。2004年にモウリーニョがつくったチームは、すっかり年をとっている。たとえば34歳のディディエ・ドログバは、ヨーロッパのトップチームのなかでは、31歳を超えても使われている唯一のストライカーといってもいい。今のドログバは大きな試合に自分のピークを合わせている(今回のチャンピオンズリーグ決勝がいい例かもしれない)。

 しかもビラス・ボアスが監督になる前に、チェルシーは新しいチームづくりで悲惨な決断をしていた。フェルナンド・トーレスを中心にチームをつくるというものだ。いかに俊敏なストライカーでも、28歳というのは年をとりすぎている。チェルシーの大半の選手と同じく、トーレスの年俸はとても高かった。年をとった選手が高い給料をもらう傾向にあるのは、フットボール界特有の経済学の一部だろう。

 ビラス・ボアスは、チェルシーのかかえる問題の解決にはならなかった。しかし、彼が問題だったわけでもなかった。
(続く)

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