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【Jリーグ】キム・テヒョンが鹿島アントラーズで感じる伝統の力「トレーニングから試合のような雰囲気がある」 (3ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho

【7月に韓国代表デビュー】

 本人の願いどおり、今年の7月に「選手としての価値」が変わった。7月と9月、キム・テヒョンに韓国A代表からの招集がかかったのだ。7月に母国で行なわれたE-1サッカー選手権では、残念ながら日本戦での出場機会は得られなかったものの、7月11日の香港戦に出場しA代表デビュー。その際に、「Jリーグで成長できた部分」を聞いてみたが、やはり今回のインタビューと同じ話をしていた。

「本当にJリーグはすごいリーグだと思います。僕はプロ選手ですが、サッカーの基本的な、精密な部分を教わったと思っています。逆に言えば、プロ選手であった自分にも"イチから教えて"くれた。そんな存在です」

 とはいえ、鹿島の鬼木達監督は「まだまだ」と見ている面もある。G大阪戦後、キム・テヒョンに対する評価を聞くとこんな返事が返ってきた。

「試合を重ねるごとに、自信も芽生えて攻撃のところも徐々によくなってきていると思います。守備の面ではまだまだアラート(集中力を失わないこと)が必要ではありますけど、経験を積むことで自信が今の形になっているのかなと。スピードもありますし。本当にアラートの部分がより出てくると、もっともっとセンターバックとして怖い存在になれると思います。まだまだ若いので、これからかなという風に思っています」

 韓国で「部活」出身ながらも年代別代表に呼ばれ続けるほどの「超天然素材」は、22歳でJリーグの精密な個人戦術に触れ、目覚めた。鳥栖での苦境を経て、今、鹿島の伝統に心を震わせながら成長する日々を送っている。

 本人は言うのだ。

「22歳、ベガルタで個人戦術を知り衝撃を受けた時に『なんで今まで知らなかったのか』と悔やんだものです。日本の選手はもっと若い年齢から知っているはずですから」

 いやいや、どうだろう。

「年代別代表が嫌だった」
「高校まではセンターバックからドリブルして突破していた」
「Kリーグ時代、プロに入って初めてのサブの経験に戸惑った」

 こういったエピソードは「枠にはまらず育った」と言える話ではないか。それが今、日本の地で"細かいこと"を学んでいるのだ。

 先に枠を教えるのがいいのか、後づけも有効なのか。

 Jリーグにとっても、キム・テヒョンは"興味深い成長曲線"を示しうる存在ではないか。

 本人は来年の北中米ワールドカップ出場、そして未来の欧州進出も目標にしているのだという。
(おわり)

キム・テヒョン 
金太鉉/2000年9月17日生まれ。韓国・    京畿道金浦市出身。レフティのセンターバック。2019年にKリーグ1部の蔚山現代(現蔚山HD)に入団。7月から2部の大田ハナシチズン、翌2020年は同じく2部のソウルイーランドFCに期限付き移籍。2021年は蔚山現代に戻り、2022年にベガルタ仙台へ期限付き移籍し2シーズンプレー。2024年にサガン鳥栖に完全移籍。2025年からは鹿島アントラーズでプレーしている。高校時代から世代別の韓国代表に選ばれ、今年7月にA代表デビューを果たした。

著者プロフィール

  • 吉崎エイジーニョ

    吉崎エイジーニョ (よしざき・えいじーにょ)

    ライター。大阪外国語大学(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒。サッカー専門誌で13年間韓国サッカーニュースコラムを連載。その他、韓国語にて韓国媒体での連載歴も。2005年には雑誌連載の体当たり取材によりドイツ10部リーグに1シーズン在籍。13試合出場1ゴールを記録した。著書に当時の経験を「儒教・仏教文化圏とキリスト教文化圏のサッカー観の違い」という切り口で記した「メッシと滅私」(集英社新書)など。北九州市出身。本名は吉崎英治。

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