日本で、世界で最もサッカーが見やすいスタジアムは? ポイントは「俯瞰的に」見えるかどうか (3ページ目)
【究極の観戦環境】
ボカ・ジュニアーズはアルゼンチンの首都ブエノスアイレス市の南部、イタリア系の貧しい移民が数多く住むボカ地区にあって、熱狂的なインチャ(サポーター)で有名だ。
「アルベルト・J・アルマンド」は1960年から20年にわたってその職にあった元会長の名。「ボンボネーラ」は「チョコレート箱」の意味だ。急勾配のスタンドに囲まれているので「箱」のように見えるからつけられた通称だ。
スタジアムの北、西、南側の3面は急勾配の2層式スタンドが取り囲んでいる。これだけでも十分に試合が見やすいスタジアムなのだが、東側には5階建ての建物があって、これがVIPやプレス席となっている。垂直の建物だから「スタンドの傾斜角」は90度というわけだ。
僕が初めてここで試合を観戦したのは1995年のことだった。対戦相手はサンロレンソ・デ・アルマグロ。アルゼンチン出身のローマ法王フランシスコもソシオだという、名門クラブだ。ボカではクラウディオ・カニージャがプレーしていた。
割り当てられたのは2階(日本式に数えると3階)の北側の端の席だった。
「俯瞰的」であると同時に、ピッチとの距離はほとんどゼロ。しかも、3階だから高さもそれほどない。まさに究極の観戦環境ということができる。
北の端だったから、身を乗り出すとCKを蹴る選手が真下に見えた。
ラ・ボンボネーラでの観戦環境はこんな感じに(写真は後藤氏提供)この記事に関連する写真を見る 僕の隣の席には80歳を越える高齢男性が座っていた。試合前やハーフタイムにはまるで眠っているかのようにピクリとも動かなかったのだが、試合が始まると大声で敵を罵り始め、「敵」がCKを蹴りに来ると唾を吐きかけている......。
2001年には、やはりこの"究極の"記者席でリーベル・プレートとの「スーペル・クラシコ」を観戦した。
このVIP用の建物の中央辺りにはマラドーナの部屋があり、試合が始まって10分くらい経った頃、マラドーナ本人が姿を見せた。
すると、スタジアム全体から「マラド~ン、マラド~ン」とマラドーナを讃えるチャントが聞えてくる。リーベルのインチャたちも、この時ばかりはボカの連中と一緒にマラドーナを讃えている。しかし、マラドーナ本人は裸になってVIP席の窓から身を乗り出して、ボカのインチャと一緒になって大声でリーベルを罵り続けるのだった。
ちなみに試合は無事にホームのボカが勝利。リーベルのインチャたちはスタンドのあちこちに火を放って帰途に就いた。すると、VIP用の建物の屋上に備え付けの放水銃によって、その炎はあっと言う間に、まるで何事もなかったかのように簡単に消されてしまった......。
それにしても、あのボンボネーラの記者席こそ僕にとっては天国だった......。
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