闘莉王、大久保嘉人、ネイマール...元トップレフェリー西村雄一を成長させたレジェンド選手たち (3ページ目)
【VARのデメリットとは?】
「日本代表が前半に2点取り、後半にJリーグ選抜の三浦知良さんが1点返したシーンが印象的です。その場面では、前線に残っていた闘莉王さんが口笛を吹いているんです。それに反応したGKの川口能活さんが素早く前線へ蹴り、闘莉王さんがヘディングで競り勝ち、カズさんが決めた。
サッカーには勝ち負けがあるけれど、それを超える感動があると気づかされました。すべての人が喜ぶ瞬間に立ち会えた。レフェリーとしてサッカーに関わることを選んで、本当によかったと思うことができました」
西村がレフェリーデビューした当時にはなかったものが、2025年のサッカー界にはある。VARと呼ばれるビデオ・アシスタント・レフェリーだ。日本では2021年から本格導入された映像によるレビューは、判定の確度を上げた。
「僕らのミスで選手の運命を変えることが、かなり少なくなりました。それは審判員が一番やりたくないことなので、VARのメリットです。
もうひとつのメリットは、映像でレビューされることで、無用な、もったいないファウルがなくなった。CKで選手がつかみ合うような場面は、ほとんどないですよね」
デメリットもある。
パリ五輪・準々決勝の日本対スペイン戦で、細谷真大のゴールがVARで取り消された。
ゴールに背を向けてパスを受けた瞬間、右足がほんのわずかにオフサイドポジションにあったという理由で、鮮やかな一撃が記録から消去された。待ち伏せを防ぐというオフサイドのルールから著しくかけ離れた解釈が、試合の行方に大きな影響を及ぼしたと言っていい。
「細谷さんは待ち伏せをしていないけれど、ルールを遵守するとオフサイドではないと言えない。ですが、それは本当に競技規則が求めているものなのか──という議論は行なわれていると聞きます」
VARが運営される時代で、VARが導入されていないリーグもある。日本ではJ2とJ3は、主審、ふたりの副審、第4の審判員で審判団が構成されている。
西村の表情に、険しさがにじんだ。
「ベンチの監督やコーチはタブレットで映像を確認できますが、審判団は確認できません。ですから、J2の試合を担当する際には、ベンチの主張が正しいケースが多いというスタンスで臨んでいました」
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