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元ワールドカップ主審・西村雄一が賞賛されたブラジル代表MFへの一発レッドカード「あれを見逃していたら...」 (2ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

【先入観にとらわれない考え方が大切】

 選手にはそれぞれのプレースタイルがある。警告や退場の対象となるような激しいプレーをいとわない選手がいて、実際にカードを多く受ける選手がいる。スコアや時間帯、試合の重要度、ホームゲームかアウェーゲームなのかなどによっても、選手たちの試合中の振る舞いは変わってくるものだ。

「若い頃は『この選手には気をつけなきゃ』という観点で見ることもありました。けれど、『こういう選手だから、こういうプレーをするかも』という先入観にとらわれない考え方が大切だと気づきました。

 あの人がやったから出すとかではなく、誰がやってもカードに値するプレーにきちんとカードを出す。そうすることによって納得度の高い判定になっていくということを、経験を積みながら理解していきました」

 2010年ワールドカップ南アフリカ大会の当時、西村は先入観に引っ張られないことの重要性に気づいていた。

 開幕戦当日のウルグアイ対フランス戦を担当し、6枚のイエローカードと1枚のレッドカードを提示する。冷静かつ適切にコントロールされたゲームは国際的に評価され、グループステージの2試合と準々決勝を担当した。日本人レフェリーが1大会で4試合の主審を任されたのは、西村ただひとりとなっている。

 ブラジルとオランダがベスト4進出をかけた一戦では、ブラジルのMFフェリペ・メロがオランダのFWアリエン・ロッベンの太ももを踏みつけた。西村はすぐさま現場に駆け寄り、フェリペ・メロにレッドカードを提示した。

「あれを見逃していたら、今ここで取材を受けることはなかったでしょうね(笑)。ピッチ上ではさまざまな事情がアドリブで起こるので、それに瞬時に対応できるのかが本当に重要になります」

 南アフリカ大会後も国際舞台に立ち続け、2014年には再びワールドカップにアポイントされる。開催国ブラジル対クロアチアの開幕カードを担当した。

 この試合では、ブラジルFWフレッジとクロアチアDFデヤン・ロブレンが交錯したプレーで、ブラジルにPKを与えた。この時点でスコアは1-1であり、ホスト国がPKを得たことなどから、西村の判定はさまざまな議論を巻き起こすこととなった。

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