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高校サッカー選手権の満員の国立競技場で思い出す静岡県勢の黄金期と「御三家」の歴史

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

連載第32回 
サッカー観戦7000試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 なんと現場観戦7000試合を超えるサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 今回は、前回に続き全国高校サッカー選手権大会の歴史について。「御三家」と呼ばれた静岡、埼玉、広島県勢の活躍の歴史と、その背景を紹介します。

41年前の国立競技場も満員だった。写真は清水東の長谷川健太(現名古屋グランパス監督) photo by AFLO41年前の国立競技場も満員だった。写真は清水東の長谷川健太(現名古屋グランパス監督) photo by AFLOこの記事に関連する写真を見る

【毎年国立競技場を満員にした静岡勢】

 全国高校サッカー選手権大会はノックアウト方式のトーナメントで行なわれ、しかも準々決勝までは80分(40分ハーフ)・延長戦なしというレギュレーションのためジャイアントキリングが起こりやすく、必ずしも実力校が勝ち残れるわけではない。それでも、やはり、今年の決勝戦にも優勝経験のある実力校が勝ち残った。

 今年の特徴はベスト4に関東勢3校が残ったことだ。

「やはり、高校サッカーも関東優勢か」と言った人もいたが、結論づけるのは少々気が早そうだ。

 関東勢の優勝は4大会前の山梨学院(山梨県はサッカー界では関東協会に所属)、7大会前の前橋育英(群馬県)、13大会前の市立船橋(千葉県)と数年おきのこと。最近の成績を見ると、いわゆる「サッカーどころ」ではない青森県の青森山田が圧倒的な成績を残しているし、やはり「サッカーどころ」ではない北信越からも優勝校が出ている。

 地域的な偏りはあまりなさそうである。

 むしろ、全国から選手を集めて強化する特定の強豪校が各地に存在し、そうした学校と一般の部活動的な学校の差が大きくなっているようだ。

 昔は、地域間格差は現在よりずっと大きかった。もう少し、高校サッカーを巡る昔話にお付き合いいただこう。

 静岡県勢が圧倒的な強さを誇っていた時代は、多くの読者のみなさんも覚えていらっしゃるだろう。1970年代から90年代頃の話だ。

 記録を紐解いてみると、1970年度の第49回大会(1971年1月)の決勝は藤枝東対浜名の静岡県勢同士の顔合わせとなり(浜名は高校総体優勝枠で出場)、藤枝東が通算4度目の優勝を決めた。以降、静岡学園が鹿児島実業と引き分けて両校優勝となった1995年度の第74回大会まで、合計26大会のうち静岡県勢は15回も決勝に駒を進めている。

 ことに1980年代前半はまさに静岡、いや清水勢の黄金時代。1980年度の第59回大会で清水東が準優勝すると、1981年度には清水市商が3位に入り、1982年度に清水東が優勝。1983年度にも清水東が準優勝している。

 この頃は毎年のように旧・国立競技場が満員となり、高校サッカー人気がピークに達した時期だったが、その中心にいたのが清水勢であり、清水東の「三羽烏」、長谷川健太、大榎克己、堀池巧の3人は日本中の注目を集めた。

 静岡県のなかでは1970年頃までは藤枝東が圧倒的な強さを誇っていたが、1970年代中盤に静岡学園がドリブルを多用したサッカーで脚光を浴び、その後は市を挙げて強化を進めてきた清水勢が主役となっていた。当時、静岡県大会は「全国大会よりレベルが高い」と言われ、僕も毎年のように静岡県大会の決勝を観戦に行ったものだった。

1980年度の高校サッカー選手権静岡県大会のチケット(画像は後藤氏提供)1980年度の高校サッカー選手権静岡県大会のチケット(画像は後藤氏提供)この記事に関連する写真を見る「三羽烏」のあとには中山雅史、澤登正朗、藤田俊哉、名波浩、川口能活といった選手が続き、一時は日本代表の半数ほどを静岡県出身の選手が占め、日本代表強化の立役者となった。静岡学園1年の時にブラジルに渡ってプロとなった三浦知良(カズ)も忘れてはいけない。

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著者プロフィール

  • 後藤健生

    後藤健生 (ごとう・たけお)

    1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2022年12月に生涯観戦試合数は7000試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。

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