国立競技場での名古屋グランパスの「敗れ方」に、アピールに失敗するJリーグの姿を見た
連載第6回
杉山茂樹の「看過できない」
相手ボールに転じると5バックで守りを固めようとする守備的サッカー。それは高い位置での攻防が減るので、相手と噛み合わせの悪い試合になりやすい。面白みは半減する。勘弁してくださいと言いたくなるが、そうした願いは筆者が中立の記者であることにもよる。観戦者全員がつまらなさを覚えているわけではない。守り倒した側のファンは、「してやったり」と喜ぶ人が大半だろう。「こんな勝ち方でいいのか」と、自軍を戒める人は珍しい。
一方で、相手チームのファンは負け惜しみの材料にする。「あんな守備的なサッカーで勝利して恥ずかしくないのか」「もっと正々堂々と戦ってみろ」と。だが、自分たちが相手の立場になったときその言葉を口にできるかといえば、怪しい。恥も外聞もなく喜んでしまう人が多数を占めたとしても不思議はない。
通常、Jリーグのスタジアムはそんなファンで二分される。ホームのファン8割、アウェーのファン2割。数的に対等ではないが、スタンドはお互い、勝てば喜び、負ければ悲しむファン気質で一致する観衆に包まれる。
その熱狂度は年々増している。Jリーグ発足当時によく見かけた、中立的な立場で純粋にサッカーを観戦するファンの数は激減した。地元密着が奏功した結果だろうか。どのクラブにも特に肩入れしていない筆者のようなファンには、いささか居心地悪く感じられる。
だが、国立競技場で観戦する場合は例外だ。アクセスがいいので、神宮球場を訪れるプロ野球ファンのように、軽いノリでフラッとやってくるファンを多く見かける。どっちのファンでもなさそうな人たちである。
9月14日の土曜日、国立競技場で行なわれた一戦、FC東京対名古屋グランパスのスタンドもそうだった。ざっと見てホームであるFC東京のファン50%。名古屋のファン15%。特にどちらのファンでもなさそうな人は35%ぐらいいた。
国立競技場で行なわれたFC東京対名古屋グランパス戦には5万5000人を超える観客が集まった photo by Masashi Hara/Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 集まった観衆は5万5896人。国立競技場で行なわれるJ1の試合は今季これで11試合目だったが、これはFC東京対アルビレックス新潟に次ぐ2番目の入場者数だった。そのうちの35%といえば約2万人。Jリーグの試合を各本拠地ではなく、国立競技場で開催する意味をそこに見る気がする。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。